僕との約束・俺の理由

「美男の殿堂」の妄想爆走文章です。 姫野くんにとっての聖域で、遂に伯爵に体に触れることを許してしまった・・・ あの朝のお話の続きを勝手に妄想してみました。 伯爵の暴走を抑えるために「また今度やらせてやるから」 と約束してしまった姫野くん。 その後のお話です。 もちろん原作者様、出版社等とは何の関係もございません。 BL表現(ヘタで申し訳ないですが)がありますので、 苦手な方はお気をつけ下さい。 SKIP 1  脱衣籠をきちんとチェックしていれば、俺はあいつ しか着ないヘンな柄のシャツを見つけていたはずだ。 そしてそのまま回れ右して自室に帰って、伯爵が上 がった頃を見計らってからもう一度風呂へ・・・ という考えが俺の頭の中を一瞬にして駆け巡ったのは、 風呂場のドアを開けた時だった。  ちょうど伯爵は、シャワーでその豊かな金色の髪から 白い泡を洗い流していた。  俺に気づいていないようだったので、伯爵に背中を 向けてもうひとつある洗い場で素早く体を洗う。 髪にシャンプーをぶっかけて、がしがしとかき回す。 「急げ急げ」と、自分を急かす。  シャワーのコックに手を伸ばした時だ。 「姫野・・・くん」 「ひっ・・・!?」  いつの間に後ろを取られていたのか、 伯爵が耳元で俺の名を呼んだ。  目の前の大きな鏡に映っている裸の俺・・・と、 俺の後ろに裸の・・・伯爵・・・。  彼の故郷を想わせる湖の色の目が、 暗い影を帯びていた。  それを見ていられなくてうつむくと、 彼の白くて長い指が、俺の胸へと伸びてきた。 「はっ・・・」  俺の胸が苦しくなる。  伯爵の指が、俺の胸に触れられずに震えている。 「今は・・・姫野くんに触れることを 許されていませんから・・・触りません」  ごくりと俺の喉が鳴った。  俺は・・・安堵したのか?それとも・・・。  触れられてもいないのに、 伯爵の手から感じる彼の体温。  蘇るキッチンでのできごと。 俺の肌を滑っていく、彼の指の感触を憶えている。 彼の手の中に包み込まれた、その熱さを憶えている。 「だ、駄目、そこまでだ」  俺は記憶を止めたかった。 ぐっと手に力を入れて、シャワーのコックをひねる。 冷たい水が降り注ぐ。 あの日、伯爵に高められた体の熱を鎮めていく。 「あの約束、果たしてくれる日を待っています」  身を退きながら、俺の耳に“約束”という 言葉を絡ませていく伯爵。 「お、俺は・・・」  振り向いた時、伯爵の背中が ドアの向こうに消えて行くところだった。  一度許したらあとはずるずると・・・ そんな関係は嫌だ。  だったら『約束』が、 彼の部屋へ行く『理由』になるのか。  2  ためらうように叩かれた部屋の戸。 「まさか・・・」  急いで出てみると、やはり姫野くんだった。 「あの・・・約束を・・・」  僕を見上げる彼の黒髪の間からのぞく瞳が、 惑いに揺れている。  逃げ出さないように、僕は彼を抱きしめた。 「よ、よせ!」 「理由がなくては、駄目ですか?」 「えっ?」 「ただ、僕に会いに来てくれたのだと自惚れたいんです」  先ほど風呂場で、姫野くんの矜持を 利用して揺さぶりをかけた。  卑怯だと思う。  だが、そうまでしても確かめたいことがあった。  先日、体に触れることを許してくれた姫野くんが 一番最後に僕に口づけたのは、僕への同情だったのか、 それとも別の感情からだったのか。  ひょいと姫野くんを抱き上げて、部屋の中へ。 「あ!おい!」  慌てる彼の唇を、自分の唇で塞いでしまう。 「ん・・・んんっ」  延べたばかりの床へ、姫野くんを横たえた。  焦って僕を叩いていた彼の手は、僕が口づけを 深くするに従って弱々しい動きとなり、 遂にはシーツの上に落とされた。  ようやく、僕は唇を離す。  途端に、はあはあと姫野くんが 苦しそうに呼吸を整えようとする。  僕はまだ濡れている彼の髪に唇で触れながら、 彼に懇願した。 「今夜は、口で姫野くんの体に触れさせてください」  びくりと姫野くんが体を震わせる。 「ね?」と、彼を促す。 「約束だからな、おまえの好きにしろ」  そっけない言葉を吐きだす唇に、 僕はそっと唇を落とす。 「ん・・・」  焦らず階段をひとつひとつ上って行くように、 彼を説得し許しを請う。  でないと、彼は逃げてしまうから。  以前、切羽詰まった僕は彼の勤める寿司屋で、 彼にいきなり口づけてしまった。  あの時は、随分長く避けられてしまったっけ。  何か自分が納得できる理由を見出せば、いいらしい。  それがどういう法則で、姫野くんの中で 成り立っているのかはわからないが。  真面目過ぎる子なのだ。  それで自分を縛ってしまうところがある。  だが今夜、その理由の中に 僕への想いが入っていたら嬉しい。  上気している姫野くんの頬に、唇を滑らせる。 「あ・・・」  高い声が甘さを帯びて、僕を刺激する。  首筋を軽く吸うと、更に声に艶が出る。 「ああ・・・」  風呂上りの肌は滑らかで、僕の唇によく馴染んだ。 「姫野くん・・・」  僕はもう、君に溺れそう・・・です。  3  気がつくと、俺は下着一枚身につけていなかった。 「えっ!?は、早っ!」  伯爵の仕事の速さに焦った俺は、 彼から逃げようとする。  すかさず、腰をつかまれてしまう。 「怖がらないで」 「べ、べつに、怖くなんか」  そうだ、怖いのは伯爵じゃない。  こういう行為に、慣れてしまうのが怖い。  彼を求めてしまうのが怖い。  ・・・自分が怖いんだ。 「姫野くん?」  心配そうに俺を見下ろしている伯爵。 「なんだよ、じろじろ見てるんじゃねェよ」 「はい」 「それから、ずるいだろ、おまえ」 「何がですか?」 「お、俺だけ、裸・・・」  くすりと伯爵が笑った。 「そうですね、 気がつかなくて申し訳ありませんでした」  伯爵が立ち上がる。 シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、下着を・・・。  俺は目のやり場に困って、横を向く。 「姫野くんは、僕を見ていてもいいですよ」 「え?何言って」  つい、伯爵の方を向いてしまう。  一糸まとわぬ彼の姿を、まともに見てしまった。  日本人とはまるっきり違った体の作り、 というのだろうか。  学校の美術の教科書で見たことがある、 外国の彫刻・・・その本物が目の前にある。  自分の体がとても貧相に見えて、泣きたくなる。 「電気、消してくれよ」 「ええー!惜しいですねぇ」 「だから、こっち見るなって。  早く消せ!」  部屋の明かりが消える。  月の光に、窓の障子が薄青く染まっている。  闇の中でも目立つ伯爵の白磁のような体が、 俺の体に重なってきた。 「お、おい、本当に」 「わかってますよ、触るだけ・・・ですから」 「絶対・・・だぞ」 「はい」  俺は伯爵の首に、腕をまわした。 「ありがとう、姫野くん」 「バカ、“ありがとう”って何だよ」 「約束を守ってくれて」 「こういうことは、さ!」 「はい?」 「こういうことは、一方がどう、ってことじゃないだろ。  ふたりがさ、ふたりで・・・えーと ・・・そんなこと、察しろよ、バカ」 「はい!姫野くん!」  4  ずっと憧れてきた人が、今、僕の腕の中にいる。 「あ・・・ああ・・・ん」  胸へと唇を滑らせていくと、熱い吐息が零れ落ちる。  更に胸の小さな輪を舌でなぞる。 「やめっ!・・・ああ・・・っ!」  彼の体が震えているのを、舌先で感じる。  姫野くんは自分の体を嫌っているらしいが、 僕は綺麗だと思う。  華奢に見えるのは、 彼の肉体がまだ子供と大人の間にあるから。  僕にはじゅうぶん魅力的だけど。  こうやって抱いていると彼の体のしなやかさに酔い、 僕はもっと彼を求めてしまう。 「はっ・・・!」  僕の手や口で愛撫されて、 姫野くんの体は素直に反応する。  黒く艶やかな髪がシーツを軽く こする音が、耳に心地良い。  幼い頃読んだ絵本の中に、 日本の昔話を紹介するものがあった。 「雪女」−。  吹雪の中に舞い踊る、長い黒髪。  その黒髪の間から覗く瞳も黒く、 獲物である人間の男を冷たく見詰める。  雪のように白い肌が魔を想像させ、ぞっとした。  この本を読んでからは、雪の日が恐ろしくなった。  降りしきる雪の中から雪女が現れて、僕に冷たい息を 吹き掛けるのではないか、とびくびくしていた。  しかし、大きくなるにつれ、 僕は彼女を美しいと感じるようになった。  絵本の中で、闇を思わせるその瞳が 哀しくはかなく揺れていた。  そして自然に僕は、日本へ行きたいと 願うようになっていった。  いざ日本に来てみると、雪女はいなかった。  せっかくの美しい黒髪を金色に染めたり、 化粧が邪魔をしてその瞳を隠してしまっていた。  そんな中、和食の研究でお世話になっている先生に 連れていってもらった寿司屋で、 僕は見つけた、僕の雪女を!  漆黒の髪は短いが、彼が動くとさらさらと揺れた。  寿司屋の白い衣装(?)は雪女の着物を想像させた。  そして意志の強そうな目は、時々僕に注がれた。  彼も僕に一目惚れしたに違いない。  雪女の名前は“姫野有祐”。 彼の入居しているアパートに、入ることもできた。 だが、一緒に暮らすうちにすぐに気がついた。 彼は雪女ではない、と。 その瞳に宿るのは、 闇でもなければ哀しみでもなかった。 未来への希望に輝く光に溢れていたのだ。 そしてこの肌−。 「ああ・・・」  僕の唇が、雪女とは違う肌の温かさを感じる。  姫野くんの体から唇を離し、彼を見下ろす。  視線を感じたのか、姫野くんがうっすらと目を開ける。 「はく・・・しゃく?」 「僕の名を・・・クリスと呼んで・・・ください」  僕は彼の唇に口づけた。 (ああ・・・やはり、雪女かもしれない。  僕はもう、魂を吸い取られてしまいそう・・・です)  5  伯爵が俺の脇の下に鼻を突っ込んで、 舌を滑らせてきた。  くすぐったい、けど、感じてしまう。  彼の手が指が、口が舌が、 俺の体の隅々まで触れていく。  彼に触れられたところが、 砂糖菓子みたいに溶けていってしまう。 「んっ・・・んん」  伯爵の唇が、俺の右足へとおりていく。  腿の内側に口づけられ、俺の体が跳ね上がる。  まるで魚だ。  なだめるように伯爵の手が、俺の腰をさする。  右足の指が一本また一本、 温かな舌に捕らわれてしまう。 「・・・だ・・・め・・・」  自分の体の全てを、 伯爵に知られてしまうことに怯える。  しかし、その怯えは伯爵によって 快いものに変えられていくのだった。  左足の指も全てねぶり尽くして、舌がのぼってくる。  と、俺は深い深い水の底に 引き込まれていくような感触に驚く。 「えっ!?あっ、おいっ!」  伯爵を引き離そうとするが、 しっかりと腰を彼に掴まれていた。  彼の綺麗な口の中に俺は飲み込まれて・・・ 伯爵の水の中に溶かされていく。 「や・・・めろ・・・!」  伯爵は、何も答えてくれない。 「ああ・・・ああ・・・」  こんな感覚、知らない!怖い! 「い、いや・・・だ」  伯爵は何も言ってくれなくて、 俺ひとりだけ翻弄されて・・・。  それが悔しくて寂しい。  涙が滲んで部屋の中が、歪んで見える。  月の光に蒼く染まった部屋は、まるで水槽のようで。 俺は囚われ、息苦しい。  何かにすがりつきたくて、手を伸ばす。  優しく絡みついてきた長く細い指に、ほっとする。  同時に、俺の体の中の熱が 一気にその指の主へと向かう。  自分ではもう、止めることができなかった。 「はっ!はなせ!」  伯爵の中の水が、 ますます強く俺を飲み込もうとする。 「うっ!?・・・くっ!・・・あっ!ああ!」  大きな波に打ちつけられる。  俺は波に引き込まれ、 くるくるまわりながら落ちて行く。  力なく、底へ底へと・・・。  突然、伯爵に抱きしめられて 水の中から引き上げられた。  はあはあ、と自分が激しく呼吸する音が聞こえる。 「姫野くん」  やっと聞こえた伯爵の声。  こんなにも心細かったのか、 と思えるぐらい安堵した。 「姫野くんのぬくもりが、僕の中に」  そう言って、伯爵は俺の手をとって 自分の胸に押し当てた。 「い、言うな」  彼の胸が俺の手の平の下で、 俺が巻き込まれた波のように激しく動いていた。  俺を飲み込んだ波は、徐々に静まっていく。  だが、伯爵が飲み込まれた波は 静まりそうになかった。  俺は顔を上げて、彼に囁いた。 「俺のからだ・・・使って、いい・・・から」 6  最初、姫野くんに何を言われたのかわからなかった。  きょとんとしている僕から、姫野くんは目をそらす。 「ほら、この間だって、俺だけ・・・だったし。  その・・・やっぱキツイだろ」  そう言って、僕の熱の中心部に手を伸ばした。 「あ!ひめ」 「俺に、どうして欲しい?」  再び僕を見上げて問う、愛しい人。  僕の頭は、電撃を受けたようにくらくらっとした。 「あっ、でも」  と、僕を睨む姫野くん。 「俺の・・・その・・・中に入る、 とかっていうのはナシだからな」 「はい!」  僕は嬉しくて、姫野くんを強く抱きしめた。  すると、彼も僕の背中に 手をまわして抱きしめてくれる。  僕が彼の顔に自分の顔を近づけると、 彼の方から口づけてくれた。  あの日、最後に僕に自分から口づけてくれたような、 はにかんだ口づけ。  それでも、今夜のそれには 艶が含まれているのを感じた。  彼も僕と同じ気持ちでここにいるのだ。  僕は足でそっと恋人の閉じていた足を、 左右に広げた。  彼は怒らず、僕のしたいようにさせてくれていた。  姫野くんの腿の内側の柔らかいところに、 僕の熱いところを包んでもらう。  ふたりの肌も汗も匂いも、ぴったりとくっつく。 「ああ・・・幸せすぎて怖いぐらい・・・ですよ。  これ、夢じゃないですよね」 「バカ」  と、姫野くんが僕の頬をつねる。 「痛い、痛いですよ」 「俺がどのくらいびっしりと 理由をつけて、ここへ来たか。  夢になんかされちゃ、たまんねェよ」 「理由ですか。  それは、僕への同情ですか、 それとも僕との約束でしょうか」 「もう、忘れた」 「そうですか」  僕が笑うと不機嫌そうに、 ふん、と姫野くんが鼻を鳴らした。  僕はゆっくりと体を動かし始める。  姫野くんの水と僕の水が混ざり合う。 ふたりを飲み込んでいく水の流れに 身を任せ・・・ふたりは魚になる。 「あっ・・・ああ・・・ 姫野・・・くん・・・素敵です・・・とっても」 「あっ!」  姫野くんの声が悲鳴に近かったので、 僕は心配になり動きを止めた。 「姫野くん?大丈夫ですか?  無理していませんか?」 「気にするな、だ、大丈夫だから。  おまえの好きなように」 「あ、はい」  僕は姫野くんに包まれて、そして姫野くんも 僕に抱かれて・・・ふたりは再び水の中へと泳ぎ出す。  目を覚ますと、もう水の中にはいなくて・・・ 姫野くんの姿も消えていた。  時計を見ると、五時はとうに過ぎていた。  僕は慌てて台所へ向かう。  味噌のいい香り。  リズミカルな包丁の音。 「おはようございます、姫野くん」  ゆっくりと振り返る姫野くんは、 笑ってくれるだろうか。 (終) ※あとがき  ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。  なんだかヘタレなBLで、申し訳ありませんでした。     尚、画像は「Atelier N」様よりお借りしました。  ブログの方にリンクが貼ってあります。