裏切りのアヴェ・マリア ―Sniper vs Samurai―
赤ばっと様リクエスト 王凱歌(ウォン・カイコー)は、ライフルのスコープの中に、 今日のターゲットの顔を捕らえていた。 白粉(おしろい)を塗りたくった白いでっぷりとした顔の横には、 これ以上ないというほど立派な福耳がぶら下がっている。 虹雅渓(こうがきょう)の差配(さはい)、アヤマロである。 「やっと、お出ましか」 隣で、范火清(ハン・ホアチン)が呟いた。 昼前にアヤマロは、数人の用心棒達と高級中華料理店に入った。 そして日が傾いた頃、ようやく彼のために玄関に車が回されたのだ。 いつもなら輿の形をした優雅な乗り物を用意するはずなのに、 この日は、スピードを重視した機能的な車だった。 そんなことが心に引っかかったのだろう、 范が口にすると凱歌も顔をしかめた。 だが范は気を取り直すと、車に乗り込もうとした アヤマロに向かって銃弾を一発、発射した。 ここまできたら、迷っている暇はない。 凱歌は范のサポートを、今日を限りに終わりにしようと思っていた。 だから范に、この計画の全てを任せた。 狙撃するこの場所も彼に探させ、合格点を与えた。 今の狙撃のタイミングも申し分ない。 彼はもう十分独りでやっていかれる、スナイパーとして。 スコープの中、アヤマロが銃弾を受けて斃れていく様が見えるはずだった。 しかし、紅い影がその姿を遮った。 凱歌は、銀色のきらめきを見た。 紅い影は、范の銃弾をその刀で真っ二つに切って落としたのだ。 目を見張る凱歌を、そのスコープの中の紅い戦闘服の男が睨みつけてくる。 金色の短髪に、紅い瞳がきつい光を放っている。 「サムライ?」 凱歌の背中を、冷たい汗が流れた。 自分がここで撃っても、彼に阻止されてしまうだろう。 「行くぞ!」 凱歌は、狙撃に失敗したショックで呆然としている范を促して、走り出した。 范が非常階段を行こうとするのを止める。 「駄目だ。追っ手が来る」 助走をつけてコンクリートを蹴り、隣のビルの屋上へと跳んだ。 キュウゾウは、雇い主であるアヤマロのすぐ後ろについて店を出た。 途端に、彼の前に回り込み刀を抜いた。 刀が銀色の弧を描くと、銃弾が真っ二つになって地面に転がった。 「ヒョーゴ!」 キュウゾウが、同僚のサムライの名を呼んだ。 「任せろ!」 既にヒョーゴは二人の用心棒を連れて、 キュウゾウが指し示す建物へと走り出していた。 他の用心棒達は、アヤマロを取り囲みその姿を隠してしまう。 キュウゾウは二振りの刀を左右の手に握りしめ、神経を集中させる。 アヤマロの乗った車が無事に発進すると、 キュウゾウは刀を背中の鞘に上と下から収める。 それからバイクにまたがり、車の後を追った。 アヤマロの乗った車が、近道をしようと広い空き地に入って行くと、 その前に范が立ち塞がった。 彼の手の中の拳銃から、銃弾が発射される。 フロントガラスに撃ち込まれるが、防弾になっているので大事なかった。 しかし運転手はすっかり怯えてしまい、慌ててハンドルを切る。 その前に現れるもうひとりのスナイパー、王凱歌。 彼の拳銃はぴたりと運転手に向けられていた。 運転手は堪らず、ブレーキを踏んだ。 「た、助けてくれ」 と両手を挙げて命乞いをする。 凱歌も無駄に命をとりたくはないので、 拳銃をさっと振って、車から出るよう促した。 運転手は車から転がり出ると、そのまま逃げてしまった。 「凱歌兄さん!」 甘えたように呼びかけながら、范が凱歌に擦り寄った。 「最後まで、自分でやれ」 凱歌が突き放すように言うと、 范は拳銃を握りしめて車の方へと足を踏み出した。 その時、バイクが近づいて来る音がした。 はっとして二人が見ると、バイクが地を蹴って空を飛ぶ。 乗っているのは、紅い戦闘服をはためかせたキュウゾウである。 車の前に躍り出た。 キュウゾウの姿はない。 操縦者を失ったバイクは横倒しになり、荒れた地面を 土埃を巻き上げながら、二人に向かって滑って来る。 凱歌は范を突き飛ばし、バイクを蹴り飛ばした。 刀が空を切る音がして、凱歌は体をのけぞらせた。 紙一重のところを、上から銀色の刀が通っていく。 キュウゾウが、土埃の中から現れる。 尚も凱歌に斬りかかってくる。 避けながら凱歌は体を落として、足払いをかけようと試みる。 范は凱歌を援助しようと拳銃を向けるが、 キュウゾウの素早い動きについていけない。 間違って凱歌を撃ちそうだ。 范は舌打ちをして、拳銃をホルスターにしまうと キュウゾウに肉弾戦で挑んでいく。 何とかしてキュウゾウの懐に飛び込みたいが、 彼の二振りの長刀が邪魔をする。 車が急発進する音がした。 アヤマロの乗った車が、猛烈な勢いでバックしていく。 運転しているのは、用心棒の一人か。 「范、追え!」 凱歌が怒鳴る。 何としても、この依頼は范の手で成し遂げられなければならなかった。 でなければ1211は納得しないし、范に制裁を加えるだろう。 范は心を残しながらも、キュウゾウが乗ってきたバイクの方へ走る。 追おうとするキュウゾウの前に、凱歌が立ち塞がる。 「俺が」 走り去るバイク。 キュウゾウは凱歌に向き直り、二刀を構えた。 凱歌も後ろに手をやって、腰にあった二挺目の拳銃を抜く。 抜くと同時に、二挺の拳銃を撃つ。 銃弾全てを切って落としながら、凱歌へ向かって走るキュウゾウ。 地面を蹴ると、キュウゾウは紅い戦闘服を脱いで凱歌に投げつける。 戦闘服はぱあっと広がって、凱歌の視界からキュウゾウを隠してしまう。 そこへ向かって、銃を撃つ凱歌。はらりと地面に落ちる、戦闘服。 凱歌の上に影が落ちる。 見上げると同時に、拳銃を撃つ。 キュウゾウが斬りつける。 凱歌の一方の拳銃が、キュウゾウに切られて落ちる。 同時に凱歌は拳で、キュウゾウの手首を打つ。 キュウゾウも刀を落としてしまう。 片方の刀で、凱歌を襲う。 同じく凱歌はもう一方の拳銃で、キュウゾウを狙う。 キュウゾウの刀は、凱歌の喉元でぴたりと止まる。 凱歌の拳銃は、キュウゾウの額に照準を合わせていた。 二人共動けない。 のは、一瞬のことで、 同時に足が上がり、互いの刀を銃を、蹴り飛ばして離れた。 地面を蹴って、二人同時に宙へ跳ぶ。 自分の肉体を武器に激突する。 互いの蹴りが胸に入る。 吹っ飛ぶ二人。 地面に転がる。 胸を押さえて立ち上がろうとする。 銃声―。 キュウゾウに向かって銃弾が飛んでくる。 その時、キュウゾウの前に人影が走り込んで来て、それを切って捨てた。 ヒョーゴだ。 「どうした、キュウゾウ。 えらく手間取っているではないか」 銃を発射した人物、范もバイクに乗ったまま凱歌の側へ来る。 「凱歌兄さん、大丈夫か?」 「ターゲットは?」 「あいつら、囮だったよ。 アヤマロはいなかった」 「そうか・・・。では、退(ひ)くぞ」 范が銃で牽制しながら、凱歌をバイクの後ろに乗せて去って行く。 刀を構えたままそれを見送ったヒョーゴが、 キュウゾウの刀や戦闘服を拾ってくる。 紅い戦闘服は穴だらけになってしまったが、キュウゾウの肩にかけてやる。 「御前(ごぜん)は無事だ。 車に乗ったとみせかけて、店の裏口から脱出した」 キュウゾウは聞いているのかいないのか、 凱歌が去った方向を睨んだままだった。 アヤマロの御殿に帰還すると、 ヒョーゴは嫌がるキュウゾウを自室へ引っ張りこんだ。 インナーを脱がせてみれば、凱歌に蹴られた箇所が紫色に腫れていた。 ヒョーゴは、キュウゾウの体に薬を塗りさらしを巻きつけながら、 先程のスナイパーの名を友に教えてやった。 「王凱歌?」 「ああ、たぶん、な。 香港最大の闇組織1211に雇われている中では、 ナンバーワンのスナイパーだ」 「で、その1211に依頼してきたのは?」 「ん?」 「わかっているのだろ」 焦らされて、苛々しながらキュウゾウが言った。 ヒョーゴは、さらしをテープで留めるとキュウゾウの前に回った。 さっと左手を広げてみせる。 ちょんちょんと右手の人差し指で、左手の親指から指の頭を叩いていく。 「ど・の・く・み・ぬ・し・に・し・よ・う・か・な」 子供の遊びのように節をつけながら、指の頭を叩いていく。 と、右手の人差し指が左手の中指の頭で止まる。 ぴんと中指を弾く。 「こいつだ」 にやりと笑うヒョーゴ。 「遂に、尻尾を出した」 「間違いない、キュウゾウだ」 凱歌は一枚の写真を、ぽんとテーブルの上に放った。 そこには、金色の髪の間から覗く紅い瞳が印象的な サムライの顔が写っていた。 アヤマロがいつもその傍らから離さずに置いている、 お気に入りの用心棒は二人。 ヒョーゴとキュウゾウだ。 「まさか、たかが商人(アキンド)の犬が、ここまでの腕とは」 范がぼやきながら、凱歌の裸の胸に包帯を巻いていく。 こちらもキュウゾウに蹴られた箇所が、紫色に腫れ上がっていた。 「本物のサムライが、まだいた、ということだな」 凱歌が、感心したように言った。 凱歌と范は、まだ虹雅渓を出ていなかった。 下層地域の安宿の一部屋に、身を潜めていた。 間もなく、ここまでアヤマロの警邏隊(けいらたい)の捜査が 及んでくるだろう。 二人共、外の気配には敏感になっている。 早急に、次の手を打たなくてはならないのだが・・・。 「これでアヤマロは、亀のように御殿から出て来なくなるだろうな」 と凱歌がつぶやけば、 「初めての失敗・・・か」 と范の口調が、自嘲気味になる。 部屋のドアが、ノックされる。 范が素早く拳銃を抜いて、戸口に張りついた。 凱歌もベッドを盾にしてうずくまり、銃を戸口に向け、 范を援護する形で構えた。 二人、うなずきあって確認する。 「誰だ?」 范が、外の人間に声をかける。 「使いだ」 男の声がして、ドアが1・2・1・1と暗号のように叩かれた。 范が鍵を外し、ドアを少し開ける。 そこから銃の先を、外の人間に向ける。 外に立っている男が、小さく両手を挙げた。 「あんたか」 范は拳銃を向けたまま、部屋に男を入れる。 うずくまっていた凱歌も、男に照準を合わせたまま立ち上がる。 「ああ、あんたが王凱歌かい? へえ、噂と違うな。 随分小さいじゃないか」 男は無遠慮に、凱歌を観察しながら言った。 1211のナンバーワンスナイパーである王凱歌についての噂は、 勝手に独り歩きしてしまっている。 屈強な肉体を持ち、スナイパーの腕だけでなく格闘技も超一流。 彼がそこにいるだけで、 殺し屋としてのオーラにあてられて気を失う者もいるとか。 「あのさ、銃を下ろしてくれる? 一応、味方なんだから」 背のことを言われてむっとしている凱歌を無視して、 男が笑顔で言った。 「アヤマロの命は、もういいぜ」 「はあ?」 思わず間の抜けたような声が出てしまう、范だった。 「アヤマロは生かしておく。 おまえ達は、街を出ろ」 「アヤマロと手を組んだか」 凱歌が冷たく言った。 「最初から、そのつもりだったのだろ。 アヤマロと戦争をするには、依頼人は小物(こもの)すぎる」 「俺はただの使いだ。 上の方の事情は、わからねえ」 「そうだな。俺もただのスナイパーだ。 事情を知ろうとも思わない」 「お互い、この世界で生き残るには、愚鈍な部分がないとな」 ふふん、と鼻で笑って男は部屋を出て行った。 「何だよ、俺達は、踊らされただけなのか?」 范はまだ不満のようだ。 そこへ再び、ドアがノックされる。 范が確かめもせず、いきなりドアを開ける。 「言っておくが、俺は納得してないぜ!」 だが、そこに立っていたのは小さな花束を抱えた少年だった。 怯えてはいたがしっかりとした口調で、ホイさんに届け物だと言った。 「チャン・ホイ」は、凱歌の偽名である。 凱歌は少年から、花束とメッセージカードを受け取った。 凱歌は、虹雅渓の最下層部にある「癒しの里」という 歓楽街へと降りて行った。 そしてその片隅に、ひっそりとたっている小さなバーの扉を押した。 店内は街のけばけばしい灯りを拒み、夜の闇を潜ませていた。 暗い照明の中、カウンターの中でアイスピックで 氷を砕いていた男が顔を上げ、凱歌を認めると微笑んだ。 「いらっしゃい」 凱歌よりも少し年長らしい、二十代後半あるいは三十代前半ぐらいだろう。 それから凱歌は、素早く店内をチェックする。 出口はこのドアと、カウンターの横か・・・。 トイレは奥にありそうだが、窓はあるだろうか。 カウンター席を中心に、テーブル席はふたつ。 その横に、古いピアノが一台ある。 奥の方にはもうひとつテーブル席があるのだろうか、 暗くなっていてよくわからない。 そちらの方へ行こうとして、店主に呼び止められる。 「こちらへどうぞ、王凱歌」 カウンター席を勧められて、凱歌は腰を下ろした。 「店主のフウ・紫焔(シエン)だ。よろしく」 聞いたことのある名だ。 凱歌が記憶を手繰る。 「フウ・紫焔といえば、 1211のナンバーワンスナイパーだった・・・?」 「そう、君の前のね。 肩を痛めて、引退したんだ」 黙ってしまった凱歌に、フウ・紫焔が明るく尋ねた。 「飲み物は何にする? 酒は飲まないのだろう」 「それより、ボスは本当に来るのか?」 「もう来てるよ」 フウ・紫焔は用意した飲み物のグラスの中に、砕いた氷を入れる。 グラスを盆に載せると、先程凱歌が気にしていた奥の席へと運んで行く。 凱歌は、それを目で追っていた。 気配に気がつかなかった・・・と呆然とする。 「凱歌、実はもう一人、客が来るんだ」 フウ・紫焔がそう言った時、扉が開いてその客が入って来た。 客の紅い上着の裾が視界の端に入った途端、 凱歌はカウンターに置かれていたアイスピックを握って、走り出していた。 相手も、銀色の輝きをその背中にきらめかせていた。 二人の影が重なる寸前、その間にもうひとつの影が割って入った。 フウ・紫焔だった。 盆で刀を止め、と言っても貫かれていたが。 そして、アイスピックの先を素手で握って止めていた。 「おいおい、俺の店で流血騒ぎはごめんだぜ」 凱歌はアイスピックをフウ・紫焔に渡し、 紅い戦闘服のキュウゾウは刀を背中の鞘に収めた。 更に、それを背中から下ろした。 「二人共、いい子だから席に座って」 間に一人分の席を空けて、 凱歌とキュウゾウが並んでカウンター席に座った。 その様子に、フウ・紫焔は小さく笑った。 「もう、敵同士じゃないんだろ」 そうなだめられても、二人の間に漂う緊張感が緩むことはなかった。 熱い茶を二人の前に出してやっても、それを睨みつけるばかりだ。 1211のボスも、そんな二人の姿を黙って見ているだけだ。 ボスは、強い男が好きだ。 フウ・紫焔は、自分の現役時代を思い出す。 随分ボスには愛されたと自惚れるほど、我儘も聞いてくれた。 今夜、凱歌を呼び出したのはわかるが、キュウゾウも招待したということは、 彼をスカウトするためなのか。 だいたい、ボスがこのような地方にまで出張って来ること自体が異例だ。 もしやこの二人の対決を仕組んでおいて、見学に来たのか。 そういうところは、相変わらずだ。 フウ・紫焔は、大きなため息をついた。 ボスの心の中を読もうとしても、無駄だと気がついたのだ。 おまけに、二つの最悪なオーラがぶつかり合う空気にあてられて、 頭も痛くなってきた。 「今夜はサービスだ。 俺が一曲、弾こう」 フウ・紫焔は、ピアノの前に座った。 彼がしなやかな指で奏で始めたのは 「グノー」の「アヴェ・マリア」だった。 凱歌がその曲に惹きつけられるように、椅子から立ち上がる。 幼い頃、まだ父も祖父も生きていて母も側にいてくれた中国の生家で、 母はよくこの曲をオルガンで弾いてくれた。 幸せだった唯一の思い出・・・。 この曲の名を知ったのは、いつだったか。 この曲を心の支えに、生き別れになった母を捜し始めて、 もうどの位の年月がたっただろうか。 凱歌がまとっている厳しい気が、ピアノの音と同調するかのように 柔らかくなっていくのを、キュウゾウは不思議な気持ちで眺めていた。 この曲に、何か思い入れがあるのだろうか。 (非情な殺し屋と「アヴェ・マリア」か・・・。 妙な取り合わせだ) そういえば、とキュウゾウは、 ここへ来る前のヒョーゴとのやり取りを思い出す。 「あの組主(くみぬし)、今頃、殺されてしまっただろうか」 今回、アヤマロの暗殺を1211に依頼した 組主の目星はついた、とヒョーゴは笑った。 「おぬしが、消しに行くのか?」 キュウゾウが尋ねると、 「なぜ?俺は御前の用心棒だ。 殺し屋ではないぞ」 「では?」 「殺しのプロが行く。 そのために、手を組んだのだから」 今度はこちらが、1211に殺しを依頼した というわけか、とキュウゾウは理解した。 それにしても、と思う。 自分が王凱歌と命のやり取りをしている間に、 アヤマロも命がけの駆け引きをしていたらしい。 案外、豪胆な商人だったのか、といささか見直したりする。 今日命を狙われて、すぐに反撃に出た。 もしかすると、ずっと以前からこの計画は 進められていたのではないか、と勘ぐってしまう。 フウ・紫焔の弾くピアノの音色の中で、 キュウゾウは血の海に沈む組主の姿を浮かべた。 生前の彼の姿を、アヤマロの御殿で見かけたことがある。 顔色の悪い神経質そうな男だった。 アヤマロの方針に特に逆らう様子を見せなかった彼の中に、 どんな感情が鬱積されていったというのだろう。 そこまでで、キュウゾウは彼のことを考えるのを止めた。 アヴェ・マリアが、葬送曲のように流れている。 いつかは自分にも、そして目の前にいる スナイパーの上にも流れるのだろう。 いや、とキュウゾウは口の端に苦笑いを浮かべる。 (俺達にはそんなもの、弾いてくれるヤツもいないな。 碌な死に方をしないだろう) 「何を笑っている?」 初めて、凱歌がキュウゾウに声をかけてきた。 (ならば、こちらも答えてやるのが礼儀というものだな) キュウゾウは夕日の色に満たされた瞳を、 王凱歌の夜の闇のような瞳に向けた。 (終) ☆ あとがき 赤ばっとさんとのメールのやり取りで生まれた 「王凱歌VSキュウゾウ」のお話です。 この時の二人の年齢はほぼ同じで、二十代半ばぐらいです。 赤ばっとさん、素敵なリクエストをありがとうございました。 最後まで読んでくださってありがとうございました。 尚、この作品はリクエストをしてくださった 赤ばっと様に限りお持ち帰りどうぞ、です。