獣 王(“獣王星”より)

樹なつみ先生原作の「獣王星」の妄想爆走文章です。 アニメ版と原作がごっちゃになっていると思います。 わかりづらくてごめんなさい。 樹先生のファンの方、不愉快に思われましたら申し訳ありません。 トール×ザギな表現がありますので、お気をつけください。 1   トールが獣王星(キマエラ)に戻った時、 一番喜んでくれるはずのティズの姿はなかった。 「ザギをかばって銃弾を受けてね、 二人共クレバスに呑み込まれてそれっきり・・・」  チェンはそう伝えるのが精一杯で、後は泣くばかりだった。  予感はあった、とトールはぼんやりと思う。  ティズがいるはずのないヘカテで、 トールは彼女に助けられたのだ。 「頭(トップ)も駄目だと思う。  傷が塞がっていなかったし、女神に愛されている トール(あんた)はともかく、『ムーサの狭間(はざま)』 から帰って来た者は誰もいないんだ」  と、ケビンも肩を落として言った。 「決してあきらめない人だけど・・・ね」  そうつけ加えて、ケビンは泣きそうな顔でトールを見詰めた。  トールの胸が痛んだ。  その傷は、彼がつけたものだ。  サード、いやシグルドと言うべきか、 の罠にはまりザギに刃を向けたのだった。  トールとラーイがキマエラに落とされて 野童達に囲まれた時、ザギが 庇護者(ガーディ)となって守ってくれた。 「庇護者と称して、小さな子供をなぶる奴が多いんだぜ」  後にサードがトールに、意味深な笑顔を浮かべながら教えた。  だがザギは、純粋にトールとラーイの庇護者だった。  この星で生きて行く知恵と、穏やかな眠りを与えてくれた。  その反面、彼はトールに囁いたのだ。  生き残るために弟を捨てろ、と。  人を殺して震えるトールを抱きしめて、 「おまえを殺そうとした奴を殺したんだ、おまえは悪くない。  弱い人間は死ぬしかない。  あの男よりもおまえの方が強かった、それだけだ。  そしてそれが、獣王星(ここ)での正義なんだ」  と慰めてくれた。 「ラーイは大事な弟だ、他の人間とは違う。  捨てられるわけ、ない」  そうはっきりと拒絶したのに、結局はトールはラーイを失った。 「おまえのせいじゃない、誰のせいでもないんだ」  ザギは再びトールを肯定した。  それでもトールは、弟を見殺しにしたと罪の意識にさいなまれた。  ザギのように、常に前を向いて歩くことなんてできなかった。  この地獄のような地で、ゲームを 楽しんでいるかのように生きていたザギ。 「そんなあんたが、本当に死んだのか?」  トールには信じられなかった。 2  181日の昼が終わって、獣王星(キマエラ)にまた夜が来た。  ティズもサードもいない、寂しい夜となった。  ザギに再会した夜も、もう遠いものになってしまった。 「夜の間は、冬眠できればいいのに」  ベッドに潜り込むたびに、そんな愚痴がトールの口を衝いて出た。  夜の闇は、昼よりも一層孤独を感じさせる。  毛布を引き寄せた時、闇の中で人の気配が動いたような気がした。 「誰だ?誰かいるのか?」  トールはベッドの上に、体を起こした。 「・・・来た」  男の声。 「ラダなのか?何か問題でも」 「ティズの最後の言葉を、伝えに来た」  この抑揚を抑えた話し方は・・・まさか!? 「ザギ?」  彼の名を半信半疑で口にした時、 部屋の隅の闇の濃い部分から白い顔が浮かび上がった。 「ほ、本当にザギなのか!?」  ザギはトールのベッドに近寄って来ると、彼を見下ろした。  その、まるで全てを見透かしているような瞳で見据えられると、 トールは昔のように動けなくなってしまう。  ザギの、冬の湖を想わせる目を凝視した。  彼に対する畏怖の念が蘇る。 「瞳(め)は昔のままだな」  ふっとザギの目が笑った。  トールの強張った身体が、弛緩する。  言われた意味を理解すると、トールは目をしばたたかせた。 「ああ、ほら、例のDNAのせいで」  今ザギの前にいるトールは、彼の知っているトールの姿ではない。  白い肌は茶色(オークル)に変化し、 プラチナブロンドの髪は闇の色をまとった。  それが、DNAが選んだ獣王の形だった。  だが、青い瞳だけは残された。 「ザギ、生きて戻ったんだな」  トールはこみ上げてきた感情に身を任せ、 ベッドに座ったままの姿勢でザギに抱きついた。  ザギは自分の腰にしがみついている少年の、 彼が好きだった銀色は失くしてしまったけれど、 髪を優しく梳いてやる。 「ティズは、おまえのところに帰りたがっていた」 「ああ」  ティズの笑顔を思い出して、涙があふれそうになる。 「自分がいないとダメだからとおまえのこと、心配していた」 「そうだな」  トールは顔を上げて、ザギを見た。  まるでティズを安心させようとするかのように、少し笑ってみせた。  その痛々しい笑顔に、ザギの手が伸ばされた。 3 「ティズのこと、悪かった」 「あんたをかばって、撃たれたって。  そういうヤツなんだ」 「バカだな」  そう言うザギの物言いには、温かさが感じられた。 「ティズは・・・」  トールは彼女の名を口にするだけで、言葉が詰まってしまう。  ティズ・・・それは彼にとって希望だった。 「ティズは、苦しまなかっただろうか」 「ああ、穏やかに逝った」 「おまえが、看取ってくれたか。  ひとりきりじゃなかったんだな」  それだけが、せめてもの救いだった。 「ムーサが、ボールを止めたのも見た」 「そうか、皮肉なもんだ、植物に護られたなんて」  トールには見えるようだった、ムーサの根が 巨大なボールにからみついている姿を。 「俺には惑星(ほし)の意志に思えたよ」 「ああ・・・」  ザギの考え方は、やはり自分と似ているように思う。 「じゃあ、行くよ」 「え?行くって・・・どこへ?  帰って来たんじゃないのか」  ザギはトールの手を、自分の腰から引きはがそうとする。 「行かないでくれ、ザギ!」  トールは必死にザギにすがりつく。 「キマエラは、バルカン星系連邦から独立したんだ。  もう、どこからの干渉も受けない」  黙ってうなずくザギ。 「あんたの言った通りになった。 だから、俺を手伝ってくれ」 ザギの首は微かに横に振られ、拒絶を示した。 「だって、だって、もう誰もいないんだ!」  小さな子供のように叫ぶトールを、ザギは抱きしめてくれた。 「よく、ひとりで頑張ったな」  トールは素直に嬉しかった、ザギに認めてもらえるのは。 「トール、俺にできることは何もない」  寂しそうなその声に、トールは不安になる。 「しっかり舵を取れ!」  そう励ますザギは、いつもの 皮肉っぽい笑みを浮かべていなかった。 昔、トールの庇護者だった頃のような優しさに満ちていた。  だがそれも一瞬のことで、トールから体を離したザギは、 再び暗闇の中へ帰って行こうとする。 4 「眠れないんだ!」  その背中を引き留めようと、必死になるトール。 「昔みたいに、眠るまでそばにいてよ」 「ガキだな」  そう言って振り返ったザギの顔に、 わずかな困惑の色を見つけてトールは嬉しくなった。  ラーイと同い年でありながら、 兄故に両親に甘える行為ができなかったトール。  だからいろいろと面倒を見てくれるザギを、 兄のように思ったこともある。  自分のちょっとしたわがままに、困った表情を 浮かべながらもそれを聞いてくれたザギ。  そんな懐かしい兄の面を覗かせた彼が ベッドの中に入って来た時、トールは思わず 全身を投げ出すように抱きついた。 「トール?」  自分の名を呼ぶその声にも、惑いが感じられる。  トールはその唇に、自分の唇を重ねた。 「ずっと・・・ずっと、あなたの特別になりたかった」  少しだけ唇を浮かせて、トールは自分の気持ちを吐露した。  庇護者としての職務を全うしているザギに対して、 邪念を抱いていたのは自分の方だったのではないだろうか。  ラーイと同じ位置にいるのは、嫌だと思わなかったか。  ラーイを見殺しにした時、俺は自分の心の奥底を 覗いたような気がしなかったか。  いつの間にかトールは、ザギの体の上にのしかかっていた。  彼の両手首を押さえつけて、唇をむさぼる。  キスとは言えないくらい、切羽詰まっていた。  だがザギは、いさめようとはしなかった。  押さえつけていたトールの手と押さえつけられていた ザギの手が、互いを求め合うようにしっかりと握られる。  部屋の中に、衣擦れの音と 男達の荒い呼吸と微かなあえぎ声が満ちて行く。  カリムもティズも、結局、この胸に抱くことはできなかった。 「ザギ、あんただけだ、俺のところに帰って来てくれたのは」  ザギは肯定も否定もせず、 トールを自分の中へと受け入れて行く。 「う・・・!あ・・・ああ!」  オークルの肌と闇を弾く白い肌が、 キマエラの夜を介してまじり合う。 「もう誰も失いたくないんだ」  涙に濡れるトールの言葉。  幾人もの人間を粛清した残虐な手が、 慰めるようにトールの頭をなでた。  この手を憎んだこともあった。  それに対する謝罪か、それとも・・・。 「・・・ごめんなさい」  そうつぶやくと、トールはことりと ザギの胸の上に頭を落とした。 「おやすみ、俺の獣王」 5 随分長いこと眠ったような気がして、 トールはぼんやりと目を覚ました。  ベッドの中に自分しかいないとわかると、 慌てて部屋を飛び出した。 「ザギを見なかったか?  ザギはこっちへ来なかったか?」  だれかれ構わず、通る者達を捕まえては そんな質問を繰り返す。 チェンに止められるまで、トールは 何かに憑かれたように人々に訊きまわっていた。 「どうした?トール。  皆が怯えているぞ。  そんな・・・そんな死んだ者を まるで生きているかのように」 「生きていたんだ!」  トールが叫ぶ。 「帰って来たんだよ、ザギが」  チェンが首を横に振る。 「夢を見たんだね。  あの傷で地の底に落ちて行ったんだ、 戻って来られるわけないよ」 「夢なんかじゃない、だって」  だって、彼を確かにこの手で・・・。  彼の肌の感触も熱も感じた。 「トール、本当なのか?」  弾んだ声で近づいて来たのは、ケビンだった。 「俺、ずっとあの人は生きてるんじゃないかって、思ってた」 「まあね、あのしぶとさには キマエラ人である私も参ったけどね」  と、チェンは降参を表して両手を軽く上に挙げた。 「もしかしたら、本当に生きて戻ったのかも。 だったら、何で姿を消したんだ?」  チェンが、トールを探るように見詰める。 「獣王星(ここ)が俺の世界になったからさ」  王になれるのは、ひとりだけ。 「自分の世界を作るために、 どこかへ旅立った・・・そんな気がする」  トールは外を見た。  まだそこには、181日のキマエラの夜が広がっていた。  その闇の中へザギは消えた。 「あいつ、エラそうだったもんね。  この世の全ての頭(トップ)みたいにさ」  チェンはうんざりした口調で言ったが、 どこか懐かしくザギのことを思い出している様子だ。  体を環境に順応させて貪欲に生きようとするのは 自分(のDNA)だが、気持ちを適応させて、 且つ、その世界を楽しんでみせたザギ。 「本当の獣王って、ザギの方だったのかな」  そんな小さなつぶやきも、キマエラ人の耳は拾ってしまう。  チェンの眉間に皺が寄る。 「何をバカなこと、言ってんだい?  獣王の仕事をさぼろうたって、そうはいかないよ。  今日も忙しくなるんだからね、さあ、働け働け」  キマエラの女の前で、弱音など吐いてはいられない・・・か。 「やっぱり、あんたの方が彼女達を仕切れたんじゃないかな」  植物も眠るひっそりとしたキマエラの夜の片隅で、 トールはザギが困ったように笑った気がした。 (終) ※あとがき 勝手に「獣王星」の続きを妄想して書いてみました。 どうしても、ザギが死んだとは信じられなくて・・・。 暴走してしまいました。 不快に思った方には、ごめんなさい。です。 最後まで読んでいただいた方、お疲れ様でした。 ありがとうございました。 尚、画像はDream Fantasy様からお借りしました。 SKIP