Blackout 11〜19
「ONE PIECE」の妄想爆走文章です。 11 ブルックはルフィを抱えて、海の上をひたすら走った。 海軍の船からは、銃弾が二人を狙って来る。 ゾロと対決したダメージはあったが、 ここで海の中に沈むわけにはいかない。 二人共、悪魔の実を食べている。 油断すれば海は二人を喜々として、その腹の中に飲み込むだろう。 前方に、サウザンドサニー号の姿が見える。 仲間達が待っていると思うと、それが励みになる。 「あそこまで行けば、皆がいますからね! もう少しですよ、ルフィさん」 「・・・戻ろう」 「え?」 「やっぱり、ゾロを連れて帰る」 「ルフィさん・・・それは」 「船長命令だ」 船長の命令は絶対だ。 しかし・・・。 ブルックが逡巡していると、 「ルフィ!ブルック!」 耳に心地良い女性の声! 行く手に目を凝らすと、小さな外輪船が 波間をこちらに向かって走って来る。 「ヨホホホ、あれは、ミニメリー2号!」 ナミがミニメリー2号で、迎えに来てくれたのだ。 海軍の船から、砲弾が発射される。 サウザンドサニー号よりも近い距離にある、 ミニメリー2号を狙っている。 ナミがジグザグに走って砲弾を巧みに避けながら、 ブルック達の方へ近づいて来る。 サウザンドサニー号からも、援護射撃がある。 ウソップとフランキーが頑張っている姿が、 ブルックの空洞の目に浮かぶ。 「ルフィ、手を伸ばして!」 ナミが叫ぶ。 しかし、ルフィは応じない。 「ブルック!」 ナミが怒鳴りながら、ブルックへ手を伸ばす。 ナミはすれ違いざまに、二人を救出するつもりだ。 ブルックが手を伸ばす。 「ヨホホホ!」 しかし、それは明らかにナミの豊満な胸に伸ばされていた。 「こんな時に、あんたは!」 ナミはすれ違いざまにブルックの もっさりとしたアフロヘアを引っ掴んだ。 「ぎゃあ!ナ、ナミさーん!ヨホホホ! アフロが抜ける!やめて!放してくださーい!」 骨だけの軽い体は、ナミにアフロを掴まれて 旗のようにひらひらと宙を泳いでいた。 ナミはミニメリー2号を片手でUターンさせると、 サウザンドサニー号へ引き返す。 海軍の砲弾は相変わらず狙ってくるが、 ウソップとフランキーを信じるだけだ。 ブルックは自力でナミの後ろの座席に 腰を落ち着けると、隣にルフィを降ろした。 「ゾロは?一緒じゃないの?」 ナミが前方を見たまま訊いて来る。 「あ、それが・・・」 ブルックは、どう話したら良いのかわからない。 「救出に失敗したのね。 それでウチの船長、落ち込んでるんだ」 ナミは詳しく訊こうとはせず、 この場ではそれだけで納得することにした。 その時、 「女!」 と呼ばれ、え?とナミは思わず声がした方、左側へ顔を向けた。 シャランと三連ピアスが互いに触れ合って、 綺麗な音がしたと思った。 だがそこに冷たく光る刃を認めて、首をすくめる。 「何っ!?」 ガキーン!と刃物の音。 後ろの席からブルックが、ナミを狙って 振られた刀をステッキの刀で止めていた。 自分を斬ろうとした男の顔を見て、ナミは驚く。 「ゾロ!?」 ゾロは既に、ミニメリー2号に足を掛けていた。 ゾロが乗って来た海軍の救命用ボートが、後ろへと遠ざかる。 12 ブルックはサウザンドサニー号の船縁に しがみつくと、甲板に降り立った。 が、すぐにがくりと膝を折った。 その全身は、新しい傷に覆われている。 「皆さん、戦闘態勢を!」 援護射撃をしていた、ウソップとフランキー。 舵を取っているサンジ。 チョッパーは、医療室で傷薬や包帯の準備をしていた。 ロビンがブルックの様子を見て、キッチンへ急ぐ。 彼のためにキッチンから、牛乳を取ってくるつもりだ。 「来ます・・・から」 ブルックが必死に訴える。 「誰が来るって?」 サンジが、煙草をくわえたまま訊ねる。 「へえ、いい船じゃねェか」 声のした方を、一同が見上げる。 メインマストの傍に、ゾロが立っていた。 右手に、秋水を引っ提げている。 「何だよ、脅かすなよ」 ウソップが、ほっとした顔をする。 「マリモも無事に救出か」 サンジも安堵したように、煙草の煙をほーっと吐いた。 そこへミニメリー2号をドックに 収納してきたナミが、飛び込んで来た。 「みんな、たいへん、ゾロが!」 そのナミを見て、ゾロが叫ぶ。 「あっ!てめェ、よくもおれを振り落としやがったな!」 「きゃあ!?もう来てる!」 ナミも喜んでいるのだと思い、フランキーが笑う。 「ああ、よかったじゃねェか。 全員そろったし、出航だな」 「ダメ!そいつは私達のゾロじゃない。 私を殺そうとしたのよ」 ナミの言葉を聞いて、サンジがゾロの所へ跳んだ。 「てめェ!男の裏切りは、赦さねェぞ」 サンジの蹴りが、ゾロの腹を狙う。 硬質の黒刀が鈍く光る。 「!?」 サンジが退く。 「てめェ、仲間に本気で刃ァ向けたな」 「てめェも、本気でおれを蹴ろうとしたろうが!」 今度はゾロが、サンジに斬りかかる。 しかし、自分の体に無数に咲いた女の手によって、 動きを封じられてしまう。 「お願いだから、この船の上で暴れないでちょうだい」 ブルックに牛乳を渡したロビンが、ゾロを睨んでいる。 「女、能力者か? くそ、この船に能力者は何人いるんだ?」 「“女”じゃないわ、私の名前、憶えている?」 ゾロが自分の体を縛っている無数の手を、 引きちぎるようにして振りほどく。 ひるむロビン。 ゾロが緑の頭を、ぽりぽりと掻く。 「悪ィ、“麦わらの一味”のリストは見せてもらったんだけどさ、 名前までは憶えてこなかったんだよ」 「その服、海軍の、ね。 あなた、海兵さんが化けた、ウチの剣士さんの偽物なのかしら」 「おれは海軍じゃねェ」 ゾロは、ロングコートの背中の 『正義』の文字をちらりと見て苦笑する。 「“正義”なんて、一番おれに似合わねェんだけどな」 「そう。それなら、私の問いに答えてくださるかしら?」 「くだされ、バカ。 ロビンちゃんが、ああおっしゃってるんだ」 罵倒しながらも、サンジはいつもと 雰囲気の違うゾロを牽制している。 ロビンに何かしようものなら、 いつでも彼を蹴り飛ばせるように。 「海賊狩りのゾロさん」 「その呼び名も、好きじゃないんだが」 「あなたはね、この船の番をしていたのよ」 ゾロは憶えがない、と首を微かに左右に振る。 「それが突然消えてしまって、私達は海軍に 捕まったんじゃないかって必死にあなたを捜していたの。 それが敵となって、私達の前に現れるなんて。 何があったのか、詳しく話して欲しい」 「・・・」 「憶えていることだけでいい、聞かせて」 なおも黙っているゾロに焦れて、サンジが声をかける。 「ほら、早く言えよ」 「・・・それは」 ロビンの黒い瞳が、ゾロをじっと見詰める。 彼の表情から、何かを読み取ろうとしている。 「・・・言えない。 おまえ達が仲間だって言うんなら、なおさら」 ロビンから逃れるように伏せられてしまう、ゾロの目。 そこに闇を感じてしまう、ロビン。 13 突然、頭痛がゾロを襲う。 顔を歪めてその場に膝をつく。 記憶が混乱している。 どれが真実なのか。 「おい、大丈夫か?」 苦しみだしたゾロを心配して、サンジが手を伸ばす。 その親切心に、刃で応えるゾロ。 「触るな!」 紙一重で避けるサンジ。 「おまえらと話してると、頭、痛くなる。 さっさと仕事済ませて、帰る」 ゾロが左腕に縛ってある黒い手拭いを解くと、頭にきちっと巻いた。 「てめェ、それって、本気だすってことだよな?」 サンジが煙草を捨てる。 「仲間に本気で刀、向けるってんだな?」 それには答えず、ゾロは和道一文字を、三代鬼徹を抜く。 サンジは戸惑っている。 先程のロビンとの問答の様子を見たところ、 ゾロは仲間のことを忘れてしまっているらしい。 海軍の仕業か。 「酷ェこと、しやがる」 プライドもなげうちバーソロミュー・くまに頭を下げて仲間の 命乞いをしたゾロを、自分達の刺客として送り込んでくるとは。 (そしておれは、こいつをたおさなきゃならねェ。 これは、あの時何もできなかったおれへの天罰か) 「あなただけではないわ」 「えっ?」 サンジの耳の後ろから、ロビンの声が聞こえた。 「ロビンちゃん?」 ロビンの唇がサンジの耳の後ろに現れ、彼に囁いているのだ。 「スリラーバークで剣士さんに対して、 大きな借りを作ってしまったのは私達全員よ。 だから今、彼を攻撃する罪もコックさんだけではない、 “麦わらの一味”全員が背負うわ」 「ロビンちゃん、ありがとう」 サンジは吹っ切ったように、とんとんと床に軽く足を打ちつけた。 「まずは、オードブルをお出ししましょうか?」 「おれは、最初っから肉を食らう」 次の瞬間、まわりの者達にはゾロとサンジの立ち位置が 入れ替わっただけに見えたが、 二人共血を流しながら荒い息をしていた。 ゾロの胸の包帯には、血が滲んでいる。 「げほっ!」 ゾロが血の塊を吐く。 サンジは足を斬られていた。 もう一度ゾロに挑もうと、振り向いたサンジ。 ゾロの方が一瞬速く、床を蹴り上からサンジを斬ろうとしていた。 「なっ!?」 足に激痛が走り、サンジの対応が遅れる 。 と、射撃音が響きゾロが硝煙に包まれる。 「大丈夫か?」 「フランキー、助かったぜ」 サンジが下を見て、フランキーに礼を言う。 フランキーの手首から、銃口が見えていた。 「腹巻の」 とフランキーが口を開きかけた時、 硝煙の中からゾロが踊り出て来た。 フランキーに斬りかかる。 「おわっ!?」 ゾロの猛る目に映った自分の姿は、彼にとっては 『敵』なんだな、とフランキーはそんなことを一瞬考えた。 昨日までの仲間に、そう思われるのは寂しい。 「フランキー!」 ウソップの声に我に返り、ひょいと身を屈めるフランキー。 小さな丸い玉が数個、ゾロに向かって飛んで来る。 刃先でウソップに打ち返すゾロ。 それをまともに顔面で受けてしまい、悲鳴を上げるウソップ。 顔はタバスコで、真っ赤になっている。 「なめてんのか!ガキ共!」 和道一文字をくわえ三代鬼徹と秋水を左右の手に持った戦士が、 甲板に立って不機嫌そうに咆える。 風に翻る『正義』の文字。 14 牛乳を飲んで回復したブルックが、左手に バイオリンを持ちステッキの剣で弦をかき鳴らす。 「眠り歌・フラン♪」 ウソップがこてんとひっくり返って、 ぐーぐーといびきをかいて寝てしまう。 鼻ちょうちんが大きくなったり、小さくなったり。 ゾロも目をつぶる。 「眠らせて、捕らえましょう」 ゾロに近づいて行くブルック。 カッと目を見開くゾロ。 「昼寝は、たっぷりしてきたぜ」 秋水が、ブルックの腹をなぎ払おうとする。 ブルックの胴体がまっぷたつ・・・か? 剣を捨てるブルック。 「万策、尽きました」 秋水はブルックの白い骨に、刃の冷たさが 伝わるぐらいの距離で止められた。 「勝負を捨てるのか」 「私は一度、仲間を失っています。 もう、あんな想いはたくさんです。 ましてや、自分の仲間に剣を向けるなど」 「いいのか?斬るぞ」 「あなたは、丸腰の相手は斬りません」 「知ったふうな口を」 秋水を振り上げる。 「サンダーボルト=テンポ!!」 いつの間にか、ゾロの頭上に雷雲が浮いていた。 ゾロに向かって、雷が落とされる。 「うわーっ!!!」 倒れるゾロ。 クリマ・タクトを手にしたナミが、 哀しげな表情で立っている。 ぴくりとゾロの指が動く。 「うおっ!」 気合いを入れて立ち上がる。 電気を帯びながら、ナミの方へ歩いて行く。 ロビンが甲板に手の花を咲かせて、ゾロの行く手を阻もうとする。 一度は足をとられて転んでしまうが、再び立ち上がる。 「女!」 とロビンに呼び掛けるゾロ。 「ひとつだけ、教えてやる。 海賊からおれを助けるために、海兵がひとり死んだ」 「そ・・・れは」 ロビンは絶句する。 「だから、おれは退けないんだ」 ゾロは足を引き摺りながら、床に点々と 血の雫を落としながら、ナミへと近づいて行く。 「やめて・・・ゾロ・・・もう、やめて・・・」 ナミは涙声で、必死にゾロを説得しようとする。 「女だろうがなんだろうが、海賊になったんなら、 てめェも覚悟決めてんだろうが」 刀を、ナミの首筋にあてる。 一斉に、二人のまわりから金属音が混じった音がする。 ゾロとナミをぐるりと囲んでいる麦わらの一味。 サンジが、足を振り上げている。 「おろすぞ、てめェ」 とゾロに言ってから、ナミに対してハートの目になる。 「ナミすぅぁ〜〜〜ん、あなたのために戦いますよ〜ん」 「はいはい、ありがと」 ナミは適当に流した。 ロビンは、腕を胸の前で交差させている。 「私達も退けないのよ」 ブルックも、再び剣をとっていた。 フランキーは指を折り曲げて、銃口をゾロの頭にぴたりとつける。 「今度は、はずさないぜ」 ウソップは、パチンコを向けている。 「ゾロ、おまえさ、病気なんだよ、きっと。 “仲間を忘れちゃった病”とか」 緊迫した空気を破るようにして、医療室の扉が開いた。 「誰が病気だって?」 チョッパーが顔を覗かせた。 「チョッパー、医療室にいろ。 包帯と傷薬、たっぷり用意しとけや。 今、こいつをみんなでぶちのめすから」 サンジがゾロから目を離さずに、言い放つ。 「こいつ?」 チョッパーが少し顔をずらして、 皆に取り囲まれている“こいつ”を見た。 「あーっ!?ゾロじゃないか!」 そして、医者はゾロの胸の包帯が赤く染まっていることや、 その他にも傷を作っていることに気がつく。 「また、おまえは怪我したな!」 その時、彼を取り囲んでいる海賊達が思わず 笑ってしまうほど、ゾロの体がぎくりと震えた。 「あ。やっぱゾロだ」 とウソップ。 「だな」 と全員がうなずく。 15 「みんな、ゾロから離れろ」 えっ?と一同が見ると、ルフィが立っていた。 麦わら帽子を深く被っていて、表情が窺えない。 「ルフィ、あんた、大丈夫なの?」 ナミが心配そうに声をかける。 先程、ミニメリー2号で救助しサウザンドサニー号に戻った時、 ルフィは後部座席から動こうとはしなかったからだ。 考えるより先に体が動いてしまう彼にしては珍しい、 と言うよりは、彼らしくなかった。 それだけゾロが海軍側についたことが、ショックだったのだ。 心が揺らいだ時、ゾロの言葉が背中を押してくれた。 ゾロの剣が敵を蹴散らして、道を開いてくれた。 そのゾロが・・・。 「おれとゾロ、二人っきりにしてくれ」 仲間達がゾロから離れ、ゾロもルフィに体を向ける。 「船長と一対一の勝負だな」 ゾロが三振りの刀を構え直す。 仲間達が、更に二人から距離をとる。 こうなったら、この勝負の行方を見守るしかない。 手出しはできない。 「ゴムゴムのォー!」 ルフィの両手が、ゴムのように伸びてゾロに向かう。 「ゾロ、捕縛!」 だが、ゾロはルフィの手をかわし床を蹴って跳ぶ。 空中で後ろへ回転し、船縁に降り立つ。 「ゴムゴムの、ゾロ捕獲!」 ルフィのゴムの手が、ゾロを捕まえようと伸びる。 船縁を走って逃げるゾロ。 「ゴムゴムの、ゾロ捕まえる!」 「ゴムゴムの、ゾロ絶対捕まえる!」 かわされてもかわされても、ゾロを追うルフィの手。 「げっ!なんなんだよ!」 船縁から飛び降り、甲板に着地するやいなや ゾロがルフィに向かって刀を振る。 「三十六煩悩鳳!」 斬撃が、ルフィに向かって飛ぶ。 「おわっ!」 体をひねって逃げるルフィ。 斬撃は船の海賊旗を掠めて、空へ消えた。 「ゾロ、おまえさ、いつものように迷子になってるだけなんだ」 「いつものように・・・って、おれは迷子になったことはねェ」 ムキになってがなるゾロ。 「いやいや」 と、麦わらの一味は思わず掌を立てて、横に振る。 「だからさ、帰って来いよ、俺達を信じて。 そうすれば、おまえの盗まれた記憶、俺達が取り返してやる」 ルフィにそう言われれば言われるほど、 ゾロの頭痛がひどくなる。 「“ゴーイングメリー号”のこととか、“ビビ”のこととか、 おまえがなくしちまった思い出をここに」 ルフィが、自分の胸を指差す。 「取り戻すんだ」 16 ゾロは再び刀を、ルフィに向ける。 「おれが船長だったら、自分に刀を向けるような 船員(クルー)は切り捨てるぜ」 「船長はおまえじゃない、おれだ」 にっと笑うルフィ。 「おまえが一番初めに、おれを船長と認めてくれたんだぜ。 あン時から始まったんだ、この海賊団は」 黙ってルフィを睨んでいるゾロ。 仲間を持つ意味を、知っている。 海賊が外道であることも。 故に信じられなかった。 その中に自分が身を置いていた、などとは。 「もう、黙れ!」 しかし、ルフィはゾロに猶も語りかける。 「おまえを切り捨てない。 おれは、おまえがいないとダメなんだ」 「?」 「ゾロだけじゃないぞ。 ナミがいないと航海もできない。 ウソップがいないと、遊べない。 サンジがいないと飯も食えない。 チョッパーがいないと、怪我も治せない。 ロビンがいないと、知恵もない。 フランキーがいないと、船も直せない。 ブルックがいないと、歌えない」 「・・・なるほど、いい仲間だ」 「だろ?だからさ、帰って来い!」 ルフィが、ゾロに向かって腕を伸ばす。 「だったら」 ゾロは伸びたルフィの腕をひょいとやり過ごし、 それに沿ってルフィの方へ走る。 その素早い動きに、ルフィは伸びた腕を 慌ててUターンさせるが彼を捕まえられない。 ゾロはルフィに近づくと、麦わら帽子ごと 彼の頭をひっつかみ床に打ちつける。 仰向けに倒れるルフィ。 「痛ッてえ!」 ゴムの腕が元に戻る。 代わりに、後頭部に大きなコブができる。 「決めな!」 ゾロは倒れたルフィに馬乗りになると、くるりと 三代鬼徹をまわしてその喉元に垂直に突きつける。 「船長が負けたら、てめェが背中の後ろで 護っている仲間は殺されるんだぞ。 おれを殺す覚悟、仲間を護り抜く覚悟を決めな」 「ゾロ、おれは」 揺れる瞳に、ゾロはルフィの迷いを読み取った。 「迷うな!」 と吐き捨てる。 「船長がそうやって迷っているから、 こいつらは生ぬるい戦いしかできねェんだ」 時々ゾロの言葉は、ルフィにはキツイ。 今日は特に、痛みさえ伴っていて。 ぎゅっと目をつぶるルフィ。 「迷ってねェよ、ゾロ」 ルフィが下から真っ直ぐに、ゾロを見詰める。 澄んだ瞳が、ゾロの頭痛をひどくする。 「おれは仲間を護って、おまえも海軍から取り戻す」 「そうかよ!」 ゾロはルフィの喉元に突きつけていた 三代鬼徹を、少し上に引き上げる。 一気にルフィの首に、刀を突き立てるつもりだ。 「やめて!」 ナミが叫ぶ。 一対一の勝負だということを忘れて、 ウソップがパチンコをゾロに向ける。 17 ゾロの顎に衝撃が走った。 「ぐっ!?」 『ゾロのバカヤロー!!』 遠い日の親友の声を聞いたと思った。 ゾロの体が浮き上がり、吹っ飛んだ。 口から、親友の形見が離れて行った。 床に落ちたゾロの頭から、手拭いがぱさりと落ちる。 「おい、ウソップ!」 サンジがとがめるように、ウソップを呼ぶ。 「え?おれじゃねェよ」 ウソップが焦って、首をぶんぶん振った。 「何も撃ってねェし、ゾロが吹っ飛ぶような威力のある物なんか」 ウソップの手の中にあるパチンコを、フランキーが取り上げた。 「確かに、あの怪物を吹っ飛ばす弾を撃つには小さいわな」 「もしかしてフランキー、おまえが?」 ウソップに訊かれて、フランキーも首を振る。 体を起こしたゾロが手拭いを拾って、左腕に縛りつけた。 軽い脳震盪を起こしたか、体がふらつく。 「ゾロッーぉ!」 ルフィが腕を伸ばして、ぐるぐるとゾロの体に巻きつけた。 「おわっ!」 「えへへ、捕獲成功!」 「くそっ」 悔しがるゾロの顔に自分の顔を近づけて、 ルフィが屈託のない笑顔を見せた。 その時、機械音が聞こえてきた。 「何だ?」 と、麦わらの一味がきょろきょろと辺りを見回す。 「上よ!」 ロビンが叫ぶ。 一味が、ゾロが、空を見上げる。 やけに空が青くて、今日はこんなに天気が良かったのかと、 ゾロは初めて気がついた。 「こんな遠い空じゃなくて、おれは・・・もっと近くて 迫力のある空を知っているような気がする」 「ちゃんと憶えてるじゃないか、そりゃ、空島だ」 「空島?」 「うほーっ!何だあれ?すっげェ!」 ルフィが、青い空の中を飛ぶ銀色の物体を見つけた。 海軍のオートジャイロが、海賊船に近づいて来るのだ。 同時にそれを援護するように、海軍の船から砲弾が 飛んで来てサウザンドサニー号の近くに落ちる。 波柱が高く上がる。 「ゾロは渡さないぞ!」 ルフィはゾロに巻いてある腕に、力をこめる。 「い、息ができねェ」 苦しそうなゾロに気づかずに、上空を飛ぶ オートジャイロをキラキラした目で見詰めるルフィ。 「代わりに、そのかっこいいヤツ、おいていけ!」 こうなると船長は役に立たないので、 船員(クルー)達は各々の判断でてきぱきと動き出す。 ウソップは大砲へ走る。 サンジは舵を取る。 ナミは階段を上り、上から戦況を見るつもりだ。 チョッパー、ロビン、ブルックは白兵戦に備えた。 フランキーがオートジャイロを、攻撃する。 「風・来・砲(クー・ド・ウ゛ァン)!」 飛び出す空気の弾丸。 18 フランキーの攻撃をかわしながら、 オートジャイロはルフィとゾロの頭上へ。 オートジャイロに乗っている男が、銃でルフィを撃つ。 「そんなもの、効かねェよ!」 ルフィはゴムの体で、銃弾を弾き返そうとする。 しかし・・・。 「なんだあ?ち、力が抜けて〜いく〜」 ふぬけた声を出しながら、 ルフィの体がふにゃっと力を失ってしまう。 「ルフィ!」 異変に気がついたロビンが、駆け寄る。 ルフィのそばに転がった銃弾を拾おうとして、手を止める。 「海楼石?」 なんとかゾロを束縛していたルフィだったが、 その力も抜け、くたりと腕が床に落ちてしまう。 ルフィから逃れたゾロが、 素早く三代鬼徹と秋水を拾い上げ鞘に納める。 「あ〜、ゾ〜ロ〜」 ルフィが力なくゾロに向かって手を伸ばす。 だが、それはゴムのように伸びなくて。 ゾロの目の前に、縄梯子が下ろされる。 見上げると、オートジャイロの男がうなずいた。 ゾロは、ざっと床の上に目を走らせ和道一文字を捜す。 隅の方に転がっている、親友の刀。 そちらへ走るゾロ。 刀に手を伸ばすと、彼から逃げるように刀が反対方向へ転がった。 海軍の攻撃を受けているせいで船が揺れたのだろう、 とゾロは更に刀に手を伸ばす。 だが、刀は逃げてしまう。 「早く!」 オートジャイロの男が促す。 フランキーの攻撃。 「風・来・砲(クー・ド・ウ゛ァン)!」 一旦、船から離れるオートジャイロ。 「次が最後だ!もう待てん!」 オートジャイロの男が叫ぶ。 再びゾロが和道一文字に手を伸ばすと、 床に咲いた無数の女の手が刀を持っていってしまう。 手はゾロの一番大切な刀を、ロビンの許へ運ぶ。 ロビンとルフィのそばには、 彼らを護るようにブルックが立っていた。 「ちっ!」 「この刀、あなたを拒んだような気がしたわ」 「くいなが・・・」 悔しそうに唇を噛むゾロ。 オートジャイロの近づく音が、大きくなる。 和道一文字の鞘を腰から抜いて、ロビンの方へほうる。 「預けておく」 ゾロの頭上に、縄梯子が下りてくる。 縄梯子に飛び移る。 19(最終話) 「行くな!」 フランキーの手首の銃口が、ゾロに照準を合わせた。 それを無視して、ゾロは縄梯子を上って行ってしまう。 「このォ」 フランキーの銃口がゾロを追う。 と、フランキーの足をつつく者がいる。 下を見るフランキー。 チョッパーが、フランキーを見上げた。 「フランキー、行かせてあげて」 「だけどよ」 「ゾロ、おれ達といると辛そうだった」 医者であるチョッパーは、ゾロが何度も ひどい頭痛に襲われているのを見抜いていた。 海軍がゾロの頭の中を滅茶苦茶にしたのでは、と仮定している。 ルフィはだるそうに体を仰向けると、力なく叫んだ。 「ゾロ、駄目だ〜、行くな〜」 ルフィを見下ろすゾロ。 一瞬だけ二人は、視線を絡ませる。 先に目を逸らしたのは、ゾロだった。 「ちっくしょう! 一度はこの手の中に、ゾロを」 悔しがるルフィ。 まだ体がいうことをきかないところをみると、 ルフィの体の中に海楼石の銃弾が入ったのかもしれない。 ロビンが医者を呼ぶ。 「チョッパー、ルフィが!」 チョッパーが慌ててルフィの方へ走る。 サウザンドサニー号の上を、 オートジャイロの縄梯子につかまったゾロが飛んで行く。 見上げる麦わらの一味。 サンジが思わず叫ぶ。 「てめェ、ちゃんと飯、食うんだぞ!」 チョッパーも泣きながら叫ぶ。 「包帯、替えろよ−! 怪我、すんなー!」 「何よそれ、お母さんみたい」 と、ナミ。 怒りと悲しみが、ごちゃまぜになった顔をしている。 去って行くゾロの背中で翻っている“正義”の文字。 「あんたに、全然、似合ってないよ」 ナミは、取り残された仲間達を見遣る。 心も体も傷ついて、陽気な海賊達がうなだれていた。 「ゾロ、赦さないんだからね。 みんな、こんなに傷ついているのに、 あんたはさっさと仲間を捨てて行ってしまった」 震えるナミの肩から白い手が伸びて来て、彼女を包みこむ。 ロビンの手だ。 ロビン自身もナミに近寄って来る。 その胸には、鞘に納めた和道一文字を抱いている。 「彼も、傷ついていると思うわ」 ロビンが和道一文字をナミに差し出す。 ナミが刀を受け取る。 「わかってる、わかってるの。 でもね」 「ん?」 「あいつが、私達のいないところでひとりぼっちで 傷ついているなんて考えたくないんだもん。 海軍はゾロの本当の仲間じゃない。 やってられないよ。 私達は、そばにいてあげることもできないんだわ。 なんの力にもならないんだ」 涙を堪えるナミを、そっと自分の胸に抱きしめるロビン。 ナミはすがりつくように、和道一文字を握りしめた。 (終) ※画像は「トリスの市場」様からお借りしました。 ブログの方にリンクを貼ってあります。 尚、参考にした資料は 「脳のしくみがわかる本」 成美堂出版様 寺沢宏次様監修 です。 ※あとがき 長い間、おつきあいいただきまして、ありがとうございました。 読んでくださった方、拍手をくださった方、 皆様に励ましていただきながら最終話にたどりついた、といった感じです。 SKIP