Blackout 1〜10
「ONE PIECE」の妄想爆走文章です。 原作の読み込み不足、勉強不足、勘違い等で、皆様の思い描く 「ONE PIECE」とはだいぶ違った形になってしまう かもしれませんが、お許し下さい。 いや、もう、ホントにごめんなさい。 5,6は暴力シーンがありますので、苦手な方はお気をつけ下さい。 尚、こちらの文章は原作者様・出版社様・ アニメ関係者様等とは一切関係ございません。 1 「麦わらの一味を捕縛」 そんなエサでロロノア・ゾロをおびき出すぐらい、 海軍にとっては朝飯前のことだったろう。 夜陰に乗じてこの島の海軍に忍び込んだゾロは、 見張りを回避するため建物の屋根の上を走っていた。 幸いなことに、今夜は月も出ていない。 仲間達はゾロをサウザンドサニー号の番に残して、 この島の中心街へと出かけて行った。 全員が海軍に捕まったのか、それとも・・・罠か。 この時間になっても、一人も船には帰って来なかった。 捕まった可能性があるのなら、助けに行くのみ。 先ほど盗み聞きした海兵達の会話から、麦わら一味が 捕まっているのは一番奥の棟らしいと見当をつける。 いかめしいその建物を、刀で突き破りながら飛び降りる。 「え?もろすぎる」 塵芥と共に床に降り立つ。 その床さえも、ゾロの着地の衝撃に耐えられず砕けた。 「新しいのは外側だけ? 中はぼろぼろだ」 明かりもなく、舞い散る建物の残骸やら埃やらで 視界は最悪だったが、ゾロはすぐさま戦闘態勢に入り、 まわりの気配を全身で感じ取ろうとしていた。 「見張りがいねェ?」 部屋の中央には、牢らしき四角い形がぼんやりと見える。 おそらく海楼石でできている。 「おい、みんな無事か?」 返事はない。 だが、牢の中で動いているのは仲間ではないだろうか。 「全員、牢から離れていてくれ。 斬ってみる」 斬れなかったら牢を担いで逃げるまでだ、とゾロは考えていた。 「秋水・・・なら斬れる、か?」 黒刀を抜きかけて、ぱちんと鞘に戻す。 「問題児だな、中の人間まで斬っちまいそうだ」 ゾロは三代鬼徹を抜いた。 短い間に精神を統一させ、刀を振った。 「き、斬れた!?」 確かな手応えがあった。 「ルフィ、動けるか?」 麦わらの一味の能力者達は、海楼石によって弱っているはずだ。 「コックは先に行け! 逃げ道を切り開くんだ。 しんがりはおれが務める」 仲間達が牢を出て出口へ向かう。 そちらへ背を向けて、ゾロはまわりを警戒する。 そう、彼の背は仲間を守るために向けられたはずだった。 しかし、ゾロは殺気をその背に感じてとっさに身をよじった。 刃が脇腹をかすめる。 「どういう」 仲間の方を振り返ったゾロに、次々と鎖が掛けられる。 足に腕に、巻きつく。 その鎖を握っているのが、ゾロが仲間だと思っていた連中だった。 ご丁寧にも、仲間達の体格に似た者達を集めていた。 「ふん、罠だったってわけだ」 ゾロは鎖を引きちぎろうとする。 と、体が痺れる。 「電気?」 その体勢から鎖をしならせて、偽者達を床に叩きつけた。 潮が満ちるように、外から海兵達がなだれ込んでくる。 そして鎖が幾重にもゾロに掛けられた。 「ってことは、あいつら、無事なんだな。 おれがしくじっちまっただけで」 いつもならもっと早く、反撃に転じられただろう。 認めたくはないが、スリラーバークやバーソロミュー・くま との戦いの傷が癒えていなかったらしい。 「あんなに寝たのに、ダメか」 苦笑するゾロ。 体に巻かれた鎖に一気に電気が流され、彼は膝をついてしまった。 「こんなもの、あいつ(エネル)のとは比べ物にもならないぜ」 悪態をつくゾロを、鎖が強く締めつける。 「針が振り切れるぐらい、電気を流せ」 指揮官が命令した。 2 「逃げられただと!」 聖地「マリージョア」に手ぶらで帰って来た “バーソロミュー・くま”に、海軍本部元帥 “仏のセンゴク”は不満を漏らした、ぐだぐだと。 くまはそれをざっと聞き流した後、ぽつりと言った。 「少なくとも一人は、命を落としていると思うが」 「ほう、誰だ、それは?」 「海賊狩りのゾロ」 その名がくまの口から吐きだされた途端、 茶を飲みに寄ったというガープ中将が笑い出した。 「それはないじゃろう」 くまは静かにガープを見詰めた。 「本気か?」 ガープが眉をひそめた。 「生きていたとしても、戦力にはなるまい」 「“ルフィ”ではなくて“ゾロ”なのか? ということは、ゾロが船長を庇ったか」 ガープの問いに、くまは答えない。 と、そこへノックもせずに一人の男が入って来た。 「興味ある話だ」 その男はある研究チームのリーダーだった。 「教授」 センゴクがその男をそう呼んだ。 「研究成果を試してみたい」 センゴクもガープも彼が何を言っているのか、わからない。 「記憶の研究だ。 麦わらの一味を使って実験してみたい」 「人体実験か?」 ガープが不快な気持ちを表すように、低い声で訊ねる。 教授がにやりと笑う。 このチームの悪名は本物だったかと、ガープは 乱暴な足どりで部屋から出て行ってしまう。 それには構わず、教授はセンゴクに問う。 「海賊は、仲間意識が強いとか」 教授というポストは特別なものなのか、 元帥の前でも横柄な態度である。 「家族みたいなものだ」 センゴクもぶっきらぼうに答える。 「船長ルフィは仲間を一人取り返すためだけに、 世界政府に喧嘩を売ったらしいね。 ロロノア・ゾロというのは、最初からの仲間だって聞いたが」 「相棒と呼んでもいいぐらいに」 「いいね」 教授は手を叩いて喜んだ。 「頼むよ、生きていたら僕のところへ連れて来て欲しい。 そうだな、足一本、手一本ぐらいとれちゃっていても構わない。 脳だけ無事なら実験できるからね」 「手負いの獣だ、ゾロ一人に的を絞れば捕らえられる」 と、センゴクは自信たっぷりに答えた。 あのゴム人間の船長はたやすく倒れてはくれないが、 一味の双璧を成す“海賊狩りのゾロ”と “黒足のサンジ”ならば能力者ではない。 いつかはこんなチャンスがくるとは思っていた。 どちらか一方でも戦力を削げば、 麦わらの一味も少しは大人しくなるだろう。 調子づいているルーキーに、ここらで灸を据えておかなくては。 「バーソミュー・くま、貴様も」 「旅行に行く」 くまは何やら訳のわからないことを言いながら、 部屋を出て行ってしまった。 センゴクは嫌な役目を自分ひとりに押しつけられてしまったようで 気分が悪かったが、麦わらの一味の消息を追うべく手配をした。 3 まだ調子の悪そうなゾロをサウザンドサニー号に残し、 ルフィ達麦わらの一味は島の中心街へと繰り出した。 いつものように買い出しに出かけようとしたサンジは、 甲板に寝転んでいるゾロの顔色の悪さに思わず声をかけた。 「おい、おめェ、ひとりで大丈夫か?」 「はあ?」 ゾロが閉じていたまぶたを開けて、不機嫌そうにサンジを睨んだ。 「大丈夫か、だと? 誰に向かって言ってんだ」 ふん、とゾロは寝返りを打ってサンジに背を向けてしまう。 かわいげのない物言いに、サンジは大きく舌打ちをした。 が、その背中が見慣れているものよりも細く感じて、 サンジはもう一度口を開きかけるが何も言えずに船を降りた。 スリラーバークでどこかの親切なヤツが、 サニー号の食料庫をいっぱいにしてくれたお陰で、 今日は生鮮食料品を少し補充するぐらいでよかった。 だからゾロの具合によっては、 彼についていてやろうと思ったのだが。 サンジはゾロに負い目がある。 なんだかんだと偉そうなことを言っておきながら、結局、 ゾロひとりをバーソロミュー・くまと対決させてしまった。 だが、暗い淵へと落ち込みそうになった気持ちは、ナミに 荷物持ちを頼まれた途端、一気に青空へ向かって浮上した。 ナミの後ろを、犬のように従順について行くサンジ。 スリラーバーク、そして、ルフィは知らないが、 バーソロミュー・くまとの戦いを乗り切った麦わらの一味は 緊張をゆるめて、買い物やら散策やらを楽しんだ。 ところが、まだ日も高いというのに一軒、 また一軒と店仕舞いを始める。 酷い所は、ナミが品定めをしていた服を 奪い取って彼女を追い出してしまった。 文句を言おうとしたサンジの鼻先で、シャッターが閉じられた。 街の広場には、ナミと同じ目に遭ったのであろう 仲間達がひとり、またひとりと集まって来た。 レストランから叩き出されたルフィとウソップ、 薬屋を追い出されたチョッパー、 牛乳を片手にブルック、不穏な気配を感じたロビン。 そしてコーラを腕いっぱいに抱えたフランキーが店から 締め出されたのが合図だったかのように、 街の四方八方から海兵達が雄叫びを上げながら現れた。 「え?海軍なんてこの島にいた?」 ナミが驚く。 銃や剣を手にした兵達の姿に、 麦わらの一味のゆるんでいた緊張感が引き締まる。 「こっちの道には海兵がいないぞ!」 フランキーに言われ、仲間達はその一本の道へと走り出した。 「でも、この道は海とは反対側へ向かってる。 船から遠ざかってしまうわ」 ロビンの冷静な言葉に、仲間達は不安を抱く。 チョッパーが鼻をひくつかせ、 「あそこの突き当たりを右に曲がれば海に出られそうだ」 と叫んだ。 「ゾロが船番で良かった」 ウソップが笑う。 「ホント。あいつだったら絶対左に曲がっちゃうわよ」 ナミの言葉に一同がうなずいた。 「あの迷子を回収するのが、たいへんなんだよなあ」 ルフィのぼやきに、全員が「おまえが言うか!」と突っ込んだ。 ところが皆が右に曲がると、 その前方から再び海軍が押し寄せて来る。 結局、左に曲がって海から離れるコースを行くしかなかった。 こんな調子で、海軍との追いかけっこが続いた。 「何かヘンですねえ」 日が落ちた頃、ブルックがガチガチと骨を鳴らしながら言った。 「ええ、そうね、私達を捕まえる気がないみたい」 ロビンが目を細める。 「追いかけ回されているだけだな」 とサンジは呟くと、ひょいとウソップの足を引っ掛けて転ばせた。 「な、な゛にずんだよ゛、ザンジ!」 したたかにご自慢の鼻を打ってしまったウソップは、かんかんだ。 「見ろよ」 サンジに指を差されて、ウソップが海兵達を見た。 皆も足を止めて、ぐるりと自分達を追っている海兵達を見た。 「え?あいつら、何で止まってるんだ?」 ウソップは、信じられないといった表情だ。 彼らは明らかにある程度の距離を保って、 自分達を追いかけている。 「いや〜な感じだぜ」 ぺっとフランキーが唾を吐いた。 「船長、どうする? 向こうさんは、長期戦にしたいらしい」 サンジが煙草に火をつけながら訊いた。 「よしっ!野郎共!戦闘だ!」 向かって来た麦わら一味に慌てる海軍。 海賊達から逃げるが、彼らがサニー号を停泊してある 海の方へ進路をとると阻止しようとする。 戦いに持ち込もうとしない。 「時間稼ぎをされているみたいで、気持ち悪いわ」 ロビンの無数に咲く手も、なかなか兵達を捕らえられない。 ルフィのゴムの手やサンジの蹴りからも、必死に逃げる海兵達。 そんなもやもやとしたやりにくい状況の中で、 一味が右往左往していると、潮が引くように海軍が街から消えた。 もうその頃には、すっかり夜も更けていた。 皆がへとへとになってサニー号に帰り着くと、 ゾロの姿が消えていた。 一同、海軍の狙いはこれだったのではないかと思案した。 ルフィは、頭の上の大切な麦わら帽子を 両手でがっしりと掴んで叫んだ。 「たいへんだ!ゾロが盗まれたァ!」 4 「割と早く捕まえてきてくれたね。 兵隊さんも、やる時はやるんだ」 感心したように言っているが、教授の言葉には侮蔑が滲んでいた。 白い手術台に歩み寄った教授は、 寝かされているロロノア・ゾロを見下ろした。 「ふーん、これが魔獣ねえ」 教授は、こちらにも軽蔑したもの言いをした。 眠っている男からは凶暴なオーラは感じられず、 むしろその整った顔立ちが好ましく見えた。 教授は手術台によじ登ると、ゾロの顔のそばに手をついて、 自分の顔がくっつきそうなぐらい近づけじっくりと眺めた。 「可愛い、私のモルモット」 愛しげに笑って、教授はゾロの左耳を飾る 三連ピアスを指先で弾いた。 それは、鮮やかな緑色の髪と皮膚の向こうにある 彼の脳に言ったのか。 しかし、破れたシャツから覗く古傷は、ゾロが幾つもの 戦いを乗り越えてきた剣客であることを伝えていた。 「ふん、野蛮な」 教授は手術台をおりると、準備を進めている助手達に声をかける。 「諸君、それでは、魔獣を海軍の犬に変えてみようじゃないか」 「はい、教授」 助手達がゾロの頭に、いかめしい機械を取りつけ始める。 「麦わらのルフィと出会ったところから 今日までの記憶を探し出し、取り除く」 「記憶は、破棄しますか?」 「いや、ディスクに保存しておこう」 「削除した記憶の代わりとなる記憶は、 どれを取り込みましょうか?」 教授が、ふむ、と考え込んだ。 「先日、サンプル採取した従順な海兵のものがよろしいのでは?」 「このまま、ぶつけてみよう」 「え?」 助手達が、教授の指示を聞き逃すまいと 作業の手を止めて彼に注目した。 「このゾロは、船長の代わりに自分の命を取れと言ったそうだ。 そんな男が、守ろうとした船長や仲間を殺すことができるのか。 興味があるだろう?」 助手達も賛同の声を上げた。 彼らの中には、教授と同じ嗜虐的な血が 流れているのかもしれない。 「ただし、ちょっとした新しい記憶は作らせてもらうがね」 「作る・・・んですか」 「ああ、そうだ」 5 暴力的なシーンがありますので、苦手な方はお気をつけください。 「おれは、海賊王になる男だ!!!」 誰だ? ゾロはどこかで聞いたことがある 言葉と声の主に、疑問を投げかける。 だが、その人物は霧の向こうにいるようで はっきりとした形を成さない。 「・・・は、海賊王になる男だ!!!」 おれが言った・・・。 誰が『海賊王』になるって、言ったんだっけ? 思い出せない・・・。 「起きなよ、ぼーや」 「おまえにはこれから起こることを、 しっかり憶えていてもらわなきゃならないんだ」 男達の声に、ゾロはうっすらと目を開ける。 頭が重い。 「暗いな」 自分がいる場所は、船倉だと見当がついた。 潮の香りと生臭い臭い。 天井からぶら下がった裸電球が波に揺れて、 ゾロの前に立つ複数の人間を照らし出す。 「何だ、てめーら」 ゾロは戦闘態勢に入ろうとしたが、体が動かない。 「!?」 柱に縛りつけられているのだ。 もちろん、腰に三振りの刀はなかった。 「海賊狩りが、海賊に捕まるなんてマヌケな話だな」 ゾロのまわりを囲んだ男達が、笑う。 「捕まった?おれが?海賊に? 違う、おれが捕まったのは」 そこまで言って、何も憶えていないと気がつく。 「ふ、そうか」 とゾロは自嘲気味に笑みを漏らす。 「それはドジったもんだ」 顔を上げたゾロの凄みのある笑顔に、 海賊達は思わず数歩下がってしまう。 しっかり縛り上げてあるとはいえ、 刀を取り上げてあるとはいえ・・・ 今にも自分達の喉笛に喰らいついてきそうで恐ろしかった。 だからであろうか、海賊達は手に武器を持った。 木刀やら丸太ン棒やらだ。 素手で彼に向かって行こうという、 そんなちっぽけな勇気も持ってはいないらしい。 ひとりが殴りかかると、ずるずると引きずられるようにして 次から次へと暴力の連鎖が始まった。 ゾロはうな垂れることなく、海賊達を睨みつけたままだ。 「殺すなって、言われたけど」 「こいつは殺したって、死ぬタマじゃないだろ」 狭い船倉に、異様な興奮が満ちていく。 「殺しておけよ。 でないと、地獄の果てまでてめェら追っかけて行って首をとるぜ」 低くうなるゾロに、総毛だつ海賊達。 「お望み通り、殺してやるよ」 刀を引っ提げた大男がゾロの前に立つ。 男の顔を睨み上げるゾロ。 刀を振りかざす大男。 ゾロの目の前が真っ赤に染まる。 胸から血が噴き出し、ゾロは床に倒れてしまう。 ゾロと共に彼を縛っていたロープも切られていた。 「まだだぜ、ロロノア・ゾロ。 仲間達の仕返しをたっぷり」 大男は最後まで言うことができなかった。 ゾロがバネのように立ち上がるやいなや、 彼に頭突きを食らわしたからだ。 どーんと派手に仰向けにひっくり返った仲間に驚く海賊達。 「こいつ、抵抗できるのか」 「ビビるな」 ゾロの反撃もここまでだった。 他の海賊達に殴られ、力尽きて倒れてしまう。 「くそ!なんか凄く疲れている」 たとえ記憶は失われていても、スリラーバークでの出来事が ゾロの体に大きなダメージを残していた。 6 暴力シーンがありますので、苦手な方はお気をつけください。 糸が切れたマリオネットのように、床に横たわっている 自分の胸から温かな血が流れていく。 床に溜まった埃に遮られて血だまりを作る。 ゾロは知らなかった。 今、大男につけられた傷は、 ミホークに斬られた傷をなぞっていることを。 最強の剣士と戦った記憶も、抜き取られてしまっていた。 「また怪我しちまった。 ・・・に怒られるな」 誰に? まただ、俺は誰のことを? おれを怒るヤツなんて・・・。 自分が作った血だまりをぼんやり見ていた ゾロの目の前の床に、刀が突き刺さる。 「てめェ、よくも!」 ゾロの頭突きで鼻を潰された大男が、がなる。 「おまえを好きにしていいって、 海賊を憎むようにしろと言われたが」 「誰に?」 ゾロの質問には答えず、大男は話を続ける。 「てめェは殴ろうが斬り刻もうが、何も感じやしねェ!」 大男はゾロの腹の上にどかりと座ると、 シャツに手をかけびりびりに引き裂いた。 「不感症のロロノアさんよ、俺のテクニックで泣かせてやるぜ」 波が静かに押し寄せるように、大男とゾロのまわりを 囲んでいる海賊達の輪が縮んでいく。 男達から下卑た笑いが聞こえてくる。 「案外、綺麗な体、してるじゃないか」 「こりゃ、楽しみだ」 そのねっとりとした空気が、ゾロにまとわりつく。 「何を?」 男達が手を伸ばし、ゾロの体を押さえつける。 大男が、自分が斬り裂いたゾロの胸の傷をべろりと舐めた。 「くっ・・・!あぁ・・・」 ゾロの声に一同が笑う。 彼らの笑いは、暗い欲望に壊れかけていた。 「感じてるんじゃねェ?」 「まだまだ、こんなもんじゃないぜ」 「あんたの後、俺でいいか?」 「何で、てめェなんだよ」 ゾロの体を奪い合うように、男達の手や舌が彼の体を這いまわる。 「やめ・・・!」 自分を呑み込んだ黒い波の中からゾロを襲ってくるのは、 今までに経験したことがない暴力だった。 その衝撃と失われた血のせいで、ゾロの意識が遠のいていく。 「おい!水持って来てぶっかけろ! こいつ、気絶しちまった」 どのくらいの時間と男達が、 ゾロの体の上を過ぎていっただろうか。 突然、船が大きく揺れた。 たくさんの足音。 「海軍だ!」 という叫び声。 乱れ飛ぶ怒号。 「ひとり残らず始末しろ!」 「約束が違うじゃねェか」 銃声。 人が斬られる音。 人がばたばたと倒れる気配。 「みんな、逃げろ!海軍だ!」 ゾロは叫んだつもりだった。 だが、声が出ない。 しかも・・・。 みんなって?仲間? いや、おれはずっとひとりだった・・・はずだ。 ゾロに向かって駆け寄って来るひとつの影。 「しっかりしろ、ロロノア・ゾロ。 もう大丈夫だ、海軍が助けに来た」 「麦わら帽子?」 自分を助け起こす、その海兵の被っている 帽子を見てゾロがぽつんと呟く。 海兵はその顔に動揺を表したが、気を取り直して言った。 「いや、麦わらではない、海軍だ。 おまえを助けたのは、海軍だぞ」 意識を失いかけているゾロに向かって、 その海兵は懸命に怒鳴っていた。 7 ゾロの痕跡を追って、麦わらの一味は島の最南端の岬に来ていた。 チョッパーの青い鼻が役に立った。 そこで一味は、崩れかけた建物と瓦礫の山を見つけた。 「間違いない、ゾロはここへ来た。 でも、匂いはここまでだ。 ここから、人の手によって運ばれたのかな」 ロビンが瓦礫の中から古い看板を拾う。 「『ようこそ』って。 ここは、リゾートホテルだったようね」 「建物自体はいい材料を使ってたみたいだが、 その上から施したのが安っぽい素人仕事だ」 フランキーが、新しい合板をぱりんと割った。 「どうやら、海軍の派出所にでも見せかけていたみたいね」 ナミが暗い顔で推測する。 「じゃあ、やっぱり連れて行ったのは海軍なのか」 ウソップが、瓦礫の中に手がかりはないかとかき回しながら言う。 「ゾロの体、まだ回復していないから心配だ。 酷いこと、されていなきゃいいけど」 医師として仲間として、チョッパーはゾロの身を案じた。 「あいつが船番を放っぽり出してこんな罠にはまったとすると、 エサはおれ達だ・・・よな、きっと」 ウソップの呟きにサンジが、 「仲間をエサにされて、かあっと頭に 血が昇るのはルフィかあのバカだ」 と、煙草の煙を吐き出しながら続ける。 彼の脳裏にはスリラーバークで、仲間を助けるために バーソロミュー・くまの前にその身を投げ出したゾロの姿が蘇る。 「サンジさんはナミさんとロビンさん、 限定で頭に血が昇りますよね。 もちろん私も、そうですが。 あ。私、昇る血はもうないんですけど」 自然に暗い雰囲気になっていくのを、音楽家は 自分の使命とばかりに明るくしようとする。 「ゾロ・・・」 ブルックの気遣いを無にするように、 ため息と共にゾロの名を小さく呼ぶルフィ。 「ん?おい、ありゃあ」 フランキーが海上に何かを見つけ、 サングラスをぐいと持ち上げる。 「向こうからお出ましだぜ」 フランキーが指差す方向を、仲間達も見る。 よく晴れた青空の下、一隻の船が こちらに向かって来るのが見えた。 その真っ白な帆には見慣れた『MARINE』の文字が。 「海軍だ!」 全員が叫ぶ。 「一隻だけ?いつも群れている海軍が? 不気味ね」 ロビンの顔が険しくなる。 「ゾロさんが捕まっているのかも」 「ゾローッ!!!」 ブルックの言葉が終わらないうちに、 ルフィがゾロの名を叫びながら岬を駆け下りる。 「ゾロを返せーッ!!!」 「あ!ルフィさーん!待ってくださーい! ここは、一旦船に戻って」 と、ブルックもルフィの後を追って走り出す。 「何か取り引きしようっていう腹か?」 サンジが勘ぐる。 「スリラーバークのお宝は、渡さないわよ」 「おいナミ・・・ゾロの命とどっちが大切なんだ」 チョッパーは答えがわかっているが、一応ナミに訊いてみる。 「お宝」 「や、やっぱり?」 「ちょっとは迷えよ」 ウソップはこの場にいないゾロが 気の毒になって、ナミに突っ込みを入れた。 8 「ぷるぷるぷる」と、電伝虫が間が抜けた呼び出し音を鳴らす。 ルフィ達が見つけた海軍の船の中だ。 助手は相手がセンゴクだとわかると、慌てて教授を呼んだ。 「教授、護衛の船もつけないで、何かあったらどうする?」 センゴクのとがめるもの言いに、教授は笑って答えた。 「護衛なら、いるから」 「ん?」 「“海賊狩りのゾロ”がね」 「ヤツを・・・殺していなかったのか」 「え?何で? ああ、そうか、人体実験と聞いて彼が死んじゃうと思った?」 自信とおごりが、教授の言葉の端々から感じられる。 センゴクの怒りを買うのでは、と傍で やり取りを聞いている助手はひやひやしていた。 「せっかく手に入れた大事な実験材料ですよー。 これからデータ、採りますから。 リポート、そちらへも送ります。 あ、なんだったら、こちらへ来て見学しますか?」 「いや、結構」 センゴクは忙しいとばかりに、会話を切り上げてしまった。 「やれやれ、せっかく面白いものを見せてあげようと思ったのに」 センゴクには、この実験のことを詳しく説明していない。 「ロロノア・ゾロを医務室から出して」 教授の言葉に、助手が慌てた。 「まだ傷口が塞がっていないと」 「大丈夫、大丈夫。 彼は、とんでもないパワーを持った怪物だって聞いたよ」 「はあ」 助手はここまで滞りなく進んできた実験が、 ゾロに無理をさせたせいで台無しになるのを恐れているのだ。 『大事な実験材料』と呼びながら、教授はあっさりと その大事なモノを壊してしまうことがままあった。 「さあて、悪名高い“麦わらのルフィ”の顔を拝ませてもらおうか」 教授はスキップでもしそうな機嫌の良さで、甲板へと出て行く。 「このヤローッ!!! ゾロを返せーっ!!!」 大声を上げながら、何かがこの船に向かって飛んで来る。 甲板にいた海兵達、そして助手達、甲板に出て来たばかりの教授、 はその正体を見極めようと目を細めた。 その“何か”の姿がだんだん大きくはっきりと人々の目に映る。 麦わら帽子を被った海賊船長。 が、向こうからやって来た。 ゴムの手を伸ばし海軍の船縁を掴んで、 この船に向かって飛んで来ているのだ。 驚愕のあまり、誰一人としてその場を動くことができなかった。 「うおおおおおーーー!!!! おまえ!ぶっ飛ばされたくなかったら、ゾロを出せー!」 ルフィは勘で嗅ぎ取ったのか、この船の一番の責任者である 自分に向かって真っ直ぐに飛んで来ていることを教授は悟った。 しかしそれを知ったとしても、弾丸のように すっ飛んで来るゴム人間との衝突を防ぐ術はなかった。 誰もが教授の死を予感した。 と、ひとつの影が人々の前をよぎった。 ぎゅっと目をつぶる教授。 だが、衝撃はなく自分が何か暖かいものに包まれた感触がした。 一方、ルフィは教授の体すれすれの所で止められた。 「刀?」 ルフィの頭がさっと冷静になって、自分を止めたものを確認する。 「ゾロの刀・・・」 そして、その刀の主に目を移す。 ルフィを止めた衝撃波で翻ったのは、 “正義”の文字が背中に入った海軍のロングコート。 そこから覗いている緑の髪の後頭部。 日の光に光っている左耳の三連ピアス。 「ゾロ・・・だよな?」 奪われた仲間、初めて会った時から自分の隣に立って欲しいと ルフィが望んだ剣士が、目の前にいた。 ゾロは左の手で教授を抱きこんで自分の体の前面で 囲うようにしてかばい、右手は背中に担いだ形となって ルフィの体当たりを防いだ刀の柄を握っていた。 その刀の刃はルフィに向けられていた。 ゴムだから斬られなかったが、刀を自分に 向けられたことがルフィにはショックだった。 「なんで、ゾロ・・・。 そいつをかばって、俺に刀を向けるんだ?」 9 「おまえが“モンキー・D・ルフィ”か?」 ゾロは教授を抱きこんだまま、顔だけルフィの方へ向けて訊ねる。 「あ・・・?おまえ、何、言って」 「悪いな、おまえに恨みはないんだが」 ゾロは安全な場所へ避難するよう、懐にかばっていた教授を促す。 それから、ルフィと向き合った。 ゾロの頭には、金属の輪がはめられている。 それはゾロの脳のデータをとるための機械だった。 「海賊は嫌いなんだ」 ゾロがルフィに刀を向ける。 「ゾロ、さっきから何、言ってるんだ?」 ルフィは本当に訳がわからないと、首を傾げてみせる。 「まあ、いいや、ほら、帰るぞ」 と、ルフィはゾロに手を伸ばした。 ゾロはその手を、刀の先でぱんと弾いた。 「帰るって、どこへ? おれはおまえら海賊に知り合いはいねェぞ」 「じゃあ、海軍に入ったのか? それ軍服だよな」 ルフィの声が低くなる。 「この服は、ちょっと借りてるんだ。 海軍に恩を受けたんで、仕事を手伝ってるだけだ」 「仕事って?」 「麦わらの一味の殲滅」 言うが早いか、ゾロはルフィに斬りかかってきた。 「ゾロ、海軍は海賊を助けない」 「おれは海賊じゃない、剣士だ」 彼との会話がずれていることを承知で、ルフィは叫ぶ。 「おまえは、おれの大事な仲間だ!」 「知らねェな!」 ゾロの刀がルフィを襲う。 ルフィはと言えば、拳を握ったものの、 ゾロに向けてそれを振るうことができない。 彼の刀をかわすだけだ。 「ゾロ、ゾロ、おまえ、どうしちまったんだよ、 しっかりしてくれよ」 ゾロに懸命に呼び掛けるルフィ。 だが、ゾロが三振りの刀を構えた時、 彼を説得できないことを悟った。 「こうなったら、力ずくで連れ帰る!」 「やれるもんなら、やってみろ!」 ルフィは拳をゾロに向ける。 「ゴムゴムのォー、バズーカ!」 ゾロも三振りの刀に気を籠める。 「鬼斬り!」 海軍の船の上、海兵達も教授の実験のスタッフ達も 固唾を呑んでふたりのやり取りを見守っていた。 教授は特に熱心に観察していた。 助手に持ってこさせた機械に、 ゾロの頭の輪からデータが続々と送られてくる。 「ゾロの記憶の削除には、成功したようだ。 船長に対して手加減なし、だ。 むしろ、我々が作ってやった記憶によって海賊を憎んでいる」 教授は満足そうに笑みを漏らした。 ルフィの拳や蹴りに対して、ゾロが刀で応戦する。 海軍の船がその戦闘のために大きく揺れた。 クルー達が慌てる。 「このままだと、船が沈んでしまうぞ」 船のあちこちに、ふたりの戦闘の被害が出始めていた。 ルフィとゾロが互いに相手の攻撃をかわすと、 それはもろに船に穴を開けた。 互いの攻撃をまともに受けて、 ふたりの体が吹っ飛んで船を傷つけた。 「また、何かがこちらへ向かって来ます!」 見張りをしていた海兵が、双眼鏡を覗きながら叫ぶ。 海の上を凄い勢いで波を蹴立てながら、 海軍の船に迫って来るものがある。 「何かって、何だ!?」 上官がいらいらしながら、こちらも叫ぶ。 「ボート・・・か? いや、違う!あれは!?」 見張りは驚いて、双眼鏡のレンズを慌てて 自分の上着で拭き、再び眼に押し当てた。 「ガ、ガイ」 全てを言う前に、その海の上を走って来たモノは 船に飛び移りルフィとゾロの間に立っていた。 「ガイコツだー!」 ルフィとゾロ以外のその場にいた全員が、叫んだ。 ふたりの間に立ったガイコツは、ルフィの拳を骨の拳で止め、 ゾロの刀をステッキで止めていた。 「ブルック」 ガイコツの名を呼んだルフィの声に、安堵の色が混じっていた。 「そいつはコスプレか? それとも、本物か?」 ゾロは彼の名を呼ばなかった。 ブルックはその彼の様子にいぶかりながらも、叱責した。 「ゾロさん、ご自分の船長に刀を向けるとは、 あってはならないことですよ」 10 ゾロはガイコツが喋るというのにも驚いたが、 彼がルフィと同じことを言ってくるのにもうんざりした。 「おれはひとりだ、船長も何もない」 「そうですか」 かつて眼球があったであろうその空洞が、戸惑いに揺れる。 「おまえも“麦わらの一味”なのか?」 ゾロが刀を握った手に力を入れる。 ブルックもルフィを制していた手をステッキに添えて、踏ん張る。 「ヨホホホ、最近入ったばかりです」 「そうか、それでリストにはなかったんだな」 ゾロに押されて後退するブルック。 その後ろにルフィ。 「おい、ブルック、どけ。 ゾロを連れて帰るんだ」 「あの人は、私達の知っているゾロさんではない」 「でも・・・」 ルフィもわかってはいるのだが、 その事実を受け入れることができない。 「たぶん、海軍によって記憶を抜き取られたのでしょう」 「モリアが影を盗んだみたいに、か?」 「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」 ゾロがブルックに斬りかかってきた。 ブルックはやむなく、ステッキからすらりと剣を抜いた。 「ほー、あんた、剣士だったのか。 じゃあ、勝負しようぜ」 ゾロが笑む。 「あの侍・リューマをたおしたあなたに勝てるとは思いませんが、 活路だけは開きましょう、ヨホホホ、船長のために」 「仲間想いだな」 「私は、今、最高に怒っております」 ブルックのガイコツの手が、怒りのために震えている。 「悪いな、おれは海軍と約束しちまったんだよ。 麦わらのルフィの首をとるってな」 ゾロは改めて、和道一文字を銜え直す。 「あなたに怒っているのではありません」 「あん?」 「本来ならば、こういう場面で船長を護り戦うのは、 ゾロさん、あなたのはずなのに。 あなたのその船長を、仲間を想う心を海軍は奪ってしまった。 私が憎いのは海軍です!」 ブルックがゾロに打ち込んでいく。 防ぐゾロ。 翻るゾロが着ている海軍のロングコート。 その下、白いシャツを身につけているのかと思っていたのだが、 包帯であることをブルックは気づいてしまう。 海軍に拷問でも受けたのか。 ますますブルックの怒りが大きくなり、冷静ではいられなくなる。 仲間に何かあった時、頭に血が昇ってしまうのは ルフィだけではない。 一番年長のブルックさえも、大人なのだからと割り切って 考えられないほど悔しくてしょうがないのだ。 それは隙となり、ブルックは剣ごとゾロに弾き飛ばされてしまう。 船の壁をぶち抜いて倒れるブルック。 「ブルック!」 叫んだルフィに向き直るゾロ。 「船長さんよ、今度こそおまえの首」 「まだ、ですよ・・・ゾロさん」 ブルックが瓦礫の中から、よろよろと立ち上がる。 「無理だな、あんたは船長を護れない」 ブルックを見もしないで、ゾロが言い放つ。 表情のないガイコツが、哀しげな顔を 自分の方へ向けたのにも気がつかない。 その時、砲弾が海軍の船の傍に被弾した。 大きな波飛沫が上がる。 船が大きく傾いて、ゾロもバランスを崩す。 ぼさっとゾロ達の戦いを見ていた 見張りの海兵が、慌てて双眼鏡を覗く。 「む、麦わらの一味の船です!」 それを聞いた途端、ブルックが走り出す。 ゾロの傍らをすり抜けルフィを抱きかかえると、 船縁を蹴って海へ飛び込んだ。 (つづく) ※画像は「トリスの市場」様からお借りしました。 ブログの方にリンクを貼ってあります。 たくさんの方々に、訪問していただきました。 ありがとうございます。 このような辺鄙な所まで、お疲れ様でした。 拍手もいただきました。 お心遣い、ありがとうございました。 励みになります。 お話の最後までお付き合いいただけたら、嬉しく思います。 ヘタレな文章で申し訳ないのですが。 SKIP