徒花(あだばな) −ユキノとキュウゾウ−
ユキノが転がるようにして蛍屋(みせ)の玄関へ 出て行くと、シチロージが上がり框に腰掛けて女中に 足を濯いでもらっているところだった。 シチロージはユキノを、 その灰色がかった藍色の瞳で認めると、 「ただいま」 と顔をほころばせ、 「終わったよ」 と言って目を伏せた。 その様子に、今回の戦の厳しさをユキノは悟った。 開け放した入り口から、春の強い風が吹き込んだ。 癒しの里を彩る桜並木から舞い込んだ数枚の花びらが、 たたきでくるくると小さな輪を描いている。 「カンベエ様は」 小さな竜巻が止んで、花びらは地面に落ちた。 それを見届けたユキノが、 シチロージの告げた名に顔を上げる。 シチロージと目が合う。 「荒れ野を、行ってしまわれた」 「ご無事だったのね」 「カツシロウも旅立って行ったよ・・・ 戦場(いくさば)へ」 ユキノの脳裏を、痛々しいカツシロウの姿がよぎった。 紅顔の美しかった少年が、戦を求めて彷徨っているとは。 ユキノは次のサムライの名が、 シチロージの口から告げられるのを待った。 だが彼は口をつぐんだまま、 ふっとユキノから視線を逸らした。 (三人だけ・・・? 生き残ったのは、三人だけだったのか!?) ユキノは愕然とした。 そして、手を伸ばしてシチロージの頭を抱きしめた。 その金色の髪に顔を埋めると、 埃と汗の匂いが鼻をくすぐる。 (ああ・・・。あたしの中に命が、帰って来た) ユキノに頭を抱きかかえられたまま、 シチロージが懐かしそうに話し始めた。 「サムライ狩りから逃げて来た時、 ここで賑やかに宴会をしたっけ。 ゴロさんもまだ生きていた。 それを思い出すと、カンベエ様も 蛍屋(ここ)に寄るのはお辛いのだろう」 ああ、そうか、とユキノは気がついた。 (この人は知らないんだ) たぶん、カンベエの足を蛍屋(こちら)に 向けさせなかった想い出は、ソレではない。 カンベエにとっての、ここでの想い出はただひとつ。 その時、シチロージはカンナ村に残って 村の復興の手伝いをしていた。 彼は一日、帰って来るのが遅かったのだ。 ユキノの目の前に、艶やかな紅と金色の まがいものの女の姿が現れる。 カンベエのためだけに咲いた、一夜だけの花が。 ユキノは自分の胸の中だけに しまっておいた記憶を、ひもといた。 あれはカンベエがリキチの女房サナエを、 天主(あまぬし)の下から救い出して来た時のことだ。 女子供ばかりのかなりの大所帯で、 カンベエ達はこの蛍屋にたどり着いた。 女達が疲れ切った体を横たえた頃、 刀を摑んで脱兎のごとく蛍屋を 飛び出して行ったカンベエが、 厳しい顔をして戻って来た。 「ユキノ殿、女達を安全な場所に移したいのだが」 「ここを知られたのですか?」 カンベエに続いて機械のサムライのキクチヨが、 ぶっくり太った色の白い男の襟首を持って 引きずるようにして入って来た。 「ほれ、もったり歩いているんじゃねエよ、 おっさん。見つかっちまうだろうが」 その色白の男が着ている服の 仕立ての良さに、ユキノが眉をひそめる。 「これはアヤマロ殿だ。 前の虹雅渓(こうがきょう)の差配(さはい)のな」 カンベエが髭を撫でながら紹介するのに、 ユキノは驚きを隠せない。 キクチヨの後から、更に一人の男が入って来た。 ユキノはその紅い上着の男を見て、再び驚愕した。 金色の髪、二振りの刀を一本の鞘に収めて背負った その男は、カンベエ達を追っていた 商人の用心棒ではないか。 ユキノは思わず身構えた。 「あ、いや。このキュウゾウは今は、 我等の味方でな」 カンベエが笑いながら説明した。 ユキノの頭の中は、 ますますこんがらかってしまう。 「心強いでござるよ、かわいげはないけど。 今も天主の手足れを斬り伏せてくれたでござる」 キクチヨが愉快そうに教えてくれた。 天主の手先が、 再び蛍屋を襲って来るかもしれない。 女連れで戦うのは、リスクが大き過ぎる。 ユキノは懇意にしている閑静な宿の名を挙げた。 蛍屋と同様に運河沿いにあるから、船で移動すれば良い。 キクチヨが女達の護衛につく。 彼ひとりでは暴走しかねない、 とマサムネも同行することになった。 カンベエとキュウゾウは蛍屋に残って、 敵を迎え撃つ。 カツシロウが出て行った後だ。 自分とキクチヨだけでは、 どうにも対処できなかったと、 カンベエがキュウゾウに礼を言った。 「誤解するな」 キュウゾウは、ぷいと横を向いた。 あら、とユキノは心の中で笑った。 (何だ、可愛いところ、あるじゃない) キュウゾウが身にまとっている厳しい空気が、 ふっと緩んだ気がした。 アヤマロも命を狙われているので、 女達と一緒に移すことにした。 のろのろと歩くアヤマロをキクチヨが急き立て、 キララとミズキが女達の支度に取り掛かる。 慌ただしい中、 カンベエがキュウゾウに向かって言った。 「儂とお主で、表で騒ぎを起こそう。 その隙に女達を逃がす」 「承知」 キュウゾウは刀を摑んで、立ち上がった。 「儂は芝居に自信があるが、お主にはできるかな?」 カンベエが髭に手をやりながら、挑発的に笑った。 キュウゾウが睨む。 先にカンベエが外に出て、キュウゾウを待つ。 廊下を裏口へと急ぐキュウゾウを、ユキノが呼び止めた。 「キュウゾウ様、 ここはカンベエ様の思いもよらない方法で、 騒ぎを起こしてやりましょうよ」 カンベエに挑発されて戸惑った表情を見せた キュウゾウに、助け舟を出したつもりだった。 いや、それよりもユキノは、 カンベエに一泡吹かせたかったのかもしれない。 何せカンベエは、ユキノとシチロージの 平和な生活にいきなり飛び込んで来て、 シチロージをかっさらって行ってしまったのだ。 (少しカンベエ様を困らせても、 罰(ばち)は当たらないでしょ、お前さん) 「あ、痛ァー!」と額に手を当てて上を向く、 そんなシチロージの困惑している様(さま)が 見えて、ユキノはふふと笑った。 女達が船に乗り込み息を殺して時を待っている頃、 蛍屋の前に定紋つきの大きな提灯が、 力自慢の男衆によって立てられて行く。 店の前は昼間のように明るくなった。 「何だ、何だ」 「蛍屋から花魁道中が出るそうだ」 「それは珍しい」 噂は瞬く間に広がって、蛍屋の前には 男達ばかりでなく女達までもが集まって来て、 大変な騒ぎになっていた。 その外側、民衆を囲むようにして、 天主の手先と思われる機械やサイボーグの サムライ達も集まっている。 ユキノはその様子を店の中から窺っていた。 「十分に引きつけてから、 お芝居の幕を開けさせてもらいますよ」 先に、三組六人の男衆が出て来る。 背丈も体つきも同じ様に揃えた男衆は、 蛍屋の提灯を手にしている。 足を揃え、一歩一歩ゆっくりと進む。 今か今かと待ちわびていた観客達から、 拍手が沸き起こった。 その男衆の後から、 やはり三組六人の少女達が続く。 揃いの着物にぽっくり姿が何とも可愛らしく、 観客達から声が掛かった。 少女達は皆手に花かごを持っていて、 一足進むごとに真っ赤な大きな花びらを撒く。 その芳香が、沿道に押しかけた人々を酔わせた。 「蛍屋、九華(きゅうか)花魁、 皆様に初お目見えでございます」 ※九華・・・宮室や器物の美しい飾り 男衆の一人が蛍屋の玄関脇から、 よく通る声で観客達に向かって口上を述べた。 集まった人々が期待を持って、 蛍屋の玄関に注目した。 ごろーりと高下駄を地面に転がす優雅な 音がして、蛍屋から九華花魁の姿が現れた。 玄関先に掲げられた提灯の灯りも 霞んでしまいそうな、その優美な姿に 人々は拍手も歓声も忘れた。 豊かな金色の髪を高く結い上げ、 品の良い髪飾りで留めている。 その金色の髪の中に一房、 瞳と同じ紅い色の髪が結い込まれている。 それが一層、華やかさを印象づけている。 提灯に照らされ不思議な魅力を持って 輝く紅い瞳は、沿道から見守る群衆達に 決して向けられることはなく、 遠くを見つめている。 目尻に淡く桜色を刷いてその表情を 柔らかく見せようとしているが、 生来の気の強さからか、寄って来る 男達はことごとく拒絶されそうな 雰囲気を持っている。 それでも男達は、 彼女に熱い眼差しを向けている。 紅(べに)をさした唇は、微笑みを 忘れたかのように引き結ばれていた。 その唇は誰とむつ言を語るのか。 十代の初々しい美しさは通り過ぎ、 若さと対で駆け上って行く美しさでもない。 正に絶頂期を迎えた美貌が、人々を魅了する。 普通花魁は前帯であるが、九華は後ろで 帯を締め、長い棒状の帯飾りを彼女の 左斜め上から右斜め下、腰の下 あたりに掛けて通してあった。 その帯の上に、傘持ちの男衆が蛍屋の 紋の入った大きな傘を差している。 九華は白粉を塗った左手を介添えの男衆の肩に預け、 右手で豪華な打ち掛けの端を持っている。 彼女の右側には、ユキノが付き添っていた。 九華は、外八文字と呼ばれる歩き方で進んで行く。 足のつま先を外へ開き膝を曲げ、黒塗りの 三枚歯の高下駄を、外側から内側へゆっくりと 輪を描きながら転がして一歩を踏む。 その度に彼女の艶めかしい白い足が 着物の裾から見えて、 男達は露骨にため息を漏らした。 歩みを速めようとして、 九華が少しバランスを崩す。 ユキノが支えて、 「急いでは駄目。 いいんですよ、男なんて待たせておけば」 と囁いた。 九華は微かにうなずくと、再び ゆっくり雅な歩みを進めて行く。 進むごとに右に左に体が揺れた。 花魁の後から、綺麗どころの一団が続いた。 彼女等は花魁と違って、 愛嬌を振り撒きながら歩いて行く。 花魁に飲まれていた人々が ほっとしたように、 彼女達に声を掛け拍手を送った。 と、その一行の前に、 一人の男が立ちはだかった。 皆の足が止まる。 その男カンベエが、 大音声で一行に向かって叫んだ。 「我が名は 天下泰平左衛門嘉親(てんかたいへいざえもんよしちか)。 遂に見つけたぞ、親の仇! 九十九坂十郎兵衛光春(つくもざかじゅうろべえみつはる)! いざ勝負!」 カンベエは抜刀し、目で花魁道中の 一行の中、キュウゾウを探す。 見物していた民衆が、 悲鳴を上げて逃げ出した。 天主の手先達は、群集に押されている。 「ええい!見苦しいぞ。 この中にいることはわかっておる。 さっさと出て来い!」 すると、先達と少女達がさっと 左右に分かれて道を開けた。 九華花魁が姿を現し、カンベエと向かい合う。 その妖しい美しさに惚けたかのように、 カンベエは口をぽかんと開けている。 その表情を見て、 ユキノが袖で口元を隠して笑った。 九華が、カンベエを強く見据える。 カンベエが首を傾げる。 「その眼差し・・・まさか」 カンベエは絶句した。 九華が、背中の帯飾りに手を伸ばす。 その見慣れた手の動きに、 「キ、キュウゾウ!」 と思わず、彼の本名を口走るカンベエ。 帯飾りからばらばらと赤や青の玉が 零れ落ち、金糸銀糸が舞った。 それが提灯の灯りにきらめく。 帯飾りから現れたのは、 二振りの細身の長刀。 キュウゾウが上と下から刀を抜いたのだ。 右手の刀をくるりと回して、 逆手から順手に持ち替える。 「参る!」 キュウゾウは重い着物をものともせず、 高下駄をすっ飛ばし、 裸足でカンベエに向かって走った。 風が唸る音を、ユキノは聞いた。 カンベエも正気に戻り、 キュウゾウの刀を受け止めた。 刃から火花が散る。 「お主、化けよったな。 やはり、儂はお主には敵わん」 カンベエがやけに嬉しそうに笑って 言うので、ユキノはしゃくに障った。 カンベエとキュウゾウが離れる。 が、キュウゾウはすぐに長い打ち掛けを回して、 その裾でカンベエに足払いを掛けて来た。 カンベエが飛び退って、これを避ける。 そして全体重を掛けて着物の裾を 踏みつけ、キュウゾウの動きを止めた。 キュウゾウはするりと打ち掛けを脱ぎ捨て、 右の刀、左の刀と連続して カンベエに討ち掛かって来る。 「花魁とサムライの斬り合いだ!」 人々が叫んだ。 一旦、蜘蛛の子を散らしたように 逃げ出した民衆が、恐る恐る 二人を遠巻きにし始めた。 その野次馬をかき分けて、 天主の手先達がカンベエに迫った。 「お主、カンナ村のサムライだな」 まさか、花魁もそのサムライだとは 思っていないから、手先達は 九華に背を向けている。 するといきなり、その女が斬り掛かって来た。 「な、何をする!?」 意表を突かれた手先達は驚いて、花魁に叫んだ。 「島田カンベエを斬るのは、この俺だ」 「き、貴様もサムライか!?」 後は敵味方、両者乱れての斬り合いになった。 ユキノは、はらはらしながらその様子を見ていた。 カンベエとキュウゾウは、 互いの背を守りながら戦っている。 カンベエの古女房だというシチロージも、 あのようにカンベエと背中を預け合って戦うのだろうか。 ふっとユキノの脳裏に、 槍を振るうシチロージの姿が浮かんだ。 浮かんでおいて、慌てて消した。 ユキノの知らない、いや見たくはない彼の姿だった。 「女将さん、ここは危険です」 数人の蛍屋の男衆が駆け寄って来ると、 ユキノの肩を抱きかかえるようにして 店の方へ連れて行く。 それでもユキノは、男衆の肩越しに カンベエとキュウゾウを見ていた。 「あんな格好をさせてしまって、 キュウゾウ様は戦いにくくないだろうか」 ユキノは気がついた。 女のつまらない嫉妬から生まれた戯言(ざれごと)に、 キュウゾウは黙って乗ってくれたのだ、と。 シチロージを取られた寂しささえも、 あの青年に見透かされていたのだ。 カンベエとキュウゾウの振るう刃が、 提灯の光を受けて閃いている。 あそこで今、命のやり取りが行われている。 ユキノは、激しい後悔と恐ろしさに体が震えた。 「ここで、あの方達に万が一のことがあったら、 あたしゃ、シチさんに顔向けできないよ」 ユキノはそう叫ぶと男衆の手を振りほどいて、 再び斬り合いの場へ向かおうとする。 それを男衆が必死に止めた。 ユキノを引きずるようにして、 蛍屋へと連れ帰った。 「私等が、おサムライ様達を必ず蛍屋へ お連れしますから、女将さんは絶対に ここを動かないでください」 そう言って、男衆が動いてくれた。 ユキノは玄関正面の階段にぺたりと 座り込んだまま、動けなくなってしまった。 どの位そうしていただろう。 背中に心地良さを感じて後ろを見ると、 いつもは無愛想で皮肉屋の年配の仲居が、 ユキノの背を優しくさすってくれていた。 「女将さん」 男衆の一人が、奥から出て来てユキノを呼んだ。 「無事、お連れ致しました」 「ああ」 とユキノは立ち上がると、 その男衆をひしと抱きしめた。 「ありがとう。世話をかけちまったね」 ユキノが中庭に面した一番大きな座敷に走って 行くと、ちょうど床下の水路から カンベエが出て来たところだった。 続けてキュウゾウが出ようとするのを、 カンベエが手を差し伸べて引き上げた。 ユキノは思わず、その場に手をついて頭を下げた。 「申し訳ありませんでした、カンベエ様。 最初の手筈通りにしていれば、 キュウゾウ様はもっと動けたのに。 危ない目に遭わせてしまいました」 カンベエが、ユキノの傍らに膝をついた。 「いや。九華殿は、艶やかに戦われた」 「九華?」 カンベエがキュウゾウを九華と呼ぶのを 訝しく思いながら、ユキノは 座ったままキュウゾウを見上げた。 なるほど、着物はところどころ斬られ、 機械油や返り血がついていて凄惨である。 しかし、着付けは多少乱れて いるものの見苦しくはない。 戦闘でやや増えた後れ毛もみっともない どころか、それが却ってこのまがいものの 女を妖艶に見せている。 ユキノがその姿にしばし見とれていると、 カンベエが 「女将・・・」 と囁いたまま、言葉を繋げないでいる。 ユキノは自分を恥じた。 「ごめんなさい、気が利かなくて。 お疲れでしょう。 ただ今、お部屋にご案内致します」 ユキノは立ち上がって、 灯りを二人の方へ差し向けた。 月のない晩だった。 真っ暗な廊下をユキノは先に立って、 二人の足元を照らしつつ離れの間へと案内する。 黙って従うカンベエとキュウゾウの間の 張り詰めた空気は、戦闘の後だからだろうか。 ユキノはその正体が摑めないでいた。 二人の胸の鼓動までが聞こえて来るようで、 息苦しかった。 (お二人は何か、覚悟をされたのか) ユキノが部屋の前で膝をつき、灯りを置く。 両手で障子を開けると、 カンベエがつっと部屋に入った。 ユキノはそのまま待った。 キュウゾウはどうするのか。 やはり別の部屋に案内しようと、 ユキノが再び障子に手を掛けると、 九華の手が障子を止めた。 ユキノは手を下ろし、 暗闇に浮かぶ九華の白い手を見ていた。 やがて衣擦れの音がして、ユキノの 横を通って九華が部屋に入った。 するとユキノの頬をかすめて、 ホタルがはかなく光りながら 九華の後から部屋の中に入った。 そのホタルを目で追うユキノ。 こちらに背を見せている九華の姿が、 ホタルの灯りの中に浮かび上がった。 髪に手をやって髪飾りを外す。 結った金と紅色の長い髪が、 はらりととけて床に垂れた。 そして障子は閉められた、 ユキノの手によって。 ユキノが知っているのは、ここまでだ。 その後、何があの部屋であったのか彼女は知らない。 (お二人はあの晩、既に別れを済まされたのだ) ほどけて九華の背中に広がった長い髪の 一筋一筋を、ユキノは覚えている。 その光景は、胸に迫って来るものがあった。 (だが・・・) ユキノの頬を涙が伝う。 (戦場での別れも、 そんなに潔いものであったろうか。 二人が、遺して逝く者と遺される者に、 引き裂かれた瞬間・・・) ユキノの涙が、 頭を抱かれたシチロージの頬に零れた。 「ユキノ・・・?」 「この里で長年、店を張っているけどね、 あんなにやさしげな命が、 この世にあったとは知らなかったよ」 ユキノを黙って見上げたシチロージが、 彼女の髪に手を伸ばす。 桜の花びらが、彼の掌の中にあった。 「あ・・・桜が」 先程の強い風に巻き上げられた桜の花びらが、 ユキノの髪に引っ掛かったのだろう。 ユキノは桜の花に、キュウゾウを想う。 あの夜、妖艶な姿で人々を魅了した、 男でもない女でもない九華という花魁を。 そして、誰よりも華麗に戦場を 舞ったというサムライを。 再び玄関から強い風が吹き込んだ。 まだ癒しを求めて訪れるには早く、 往来に人影はない。 吹雪のように花びらが舞っているだけだ。 その桜の木の下で九華が、キュウゾウが、 両の手に細身の長刀を握りしめ振るう姿を、 ユキノは見たような気がした。 ・・・また、あの優しい青年は、 愚かな女の感傷につき合ってくれている。 (終) ☆ あとがき 最後まで読んでくださって、 ありがとうございました。 キュウゾウ殿の女装は苦手という 方には、ごめんなさいでした。 次回、キュウゾウ殿と絡むのはカンベエの おっさまを処刑しようとした死刑執行人です。 軽めです。妄想爆走すると思います。 今のうちから謝っておきます。 すみませんすみません。 ☆ この作品にコメントをいただきました。 申し訳ありませんが、管理人宛でしたので こちらでは公開できません。 感動してくださったという、 ありがたいお言葉を頂戴致しました。 SKIPの返信のみ公開致します。 ありがとうございました 管理人宛にコメントをくださった方 (一応お名前は伏せておきますね) ありがとうございました。 何よりも励みになります。 まだまだ勉強の途中ですが、頑張ります! よかったら、また覗きに来てやってください。 いつでもどうぞ。お待ちしております。 | 2006-01-20 |