Are You Ready?(冷たい心臓の続編)
「準備はいいか?」 坂田銀時は、恐らくこの宇宙(せかい)で 一番小さな通信機に向かって言った。 「いつでもいいぜ、BOSS」 低く抑えた声が、銀時の耳をくすぐる。 客の前だから、土方十四郎が自分を 立ててくれる態度が、少々照れ臭い。 この捕り物が始まってからずっと、銀時の まわりを球型のカメラが飛びまわっていた。 央国星のハタ皇子のところへ、耐えず映像を送っている。 彼の大切なペットを傷つけずに 捕獲するよう、監視しているわけだ。 ペットとは、宝石をちりばめた貝を背負った、 地球のヤドカリに似た「タマちゃん」である。 宇宙の塵(ちり)が集まった場所に逃げ込んだ タマを、特殊なゴーグルで捜索しながら追った。 「万事屋銀ちゃん」の看板を掲げた宇宙船は、この空間に 入ることはできないので、十四郎と二人、縦横無尽に 走りまわれるスクーターで飛び出して来たのだ。 手には棒に見えるが、スイッチを押すと 電磁波の網が出て獲物を捕らえる優れモノが。 これらは全て、平賀源外の作品だ。 銀時と十四郎が坂本の船で地球を飛び出した時、 ちゃっかり源外の爺さんも乗っていて驚いた。 以来、三人で組んで宇宙の万事屋をやっている。 男達は、地球ではお尋ね者だ。 銀時がタマを見つけ、網で捕獲しようとしたが、 網の中に入っていたのは宝石をちりばめた貝殻だけだった。 慌ててゴーグルで追った後ろ姿は、軽石のような 穴ぼこだらけの岩の中へ逃げてしまった。 「そっちへタマちゃんを追い出すんで、よろしく」 と銀時。 「承知」と十四郎。 これで打ち合わせは終わり。 あ・うんの呼吸で、仕事はいつもうまくいっていた。 銀時はタマが潜んでいる岩石の穴の中へ、爆弾を撃ち込んでいく。 小動物対応の可愛い爆弾だ。 すると通信機から十四郎の少し高めの声で、悲鳴が上がった。 銀時は蹴飛ばすように、スクーターのアクセルを踏んだ。 「事故か」 源外の腕は一応信頼しているが、時々、 とんでもない仕掛けがあったりするからである。 十四郎の悲鳴と前後して、タマの潜んでいる岩が動き始めた。 銀時はそれを飛び越える。 すると、十四郎が怪物に襲われていた。 怪物はこの岩石を体にくっつけていた。 ヤドカリにそっくりだ。 頭に十四郎の持っていた網が、引っかかっていた。 十四郎のスクーターは吹っ飛んで暴走しているし、 怪物はハサミを振り立てて十四郎を追いかけている。 宇宙服をあのハサミで傷つけられたら、アウトだ。 宇宙服は年々改良されて、軽くて薄くて丈夫なものになっている。 今ではほとんど、普通の服と大差ないくらいだ。 ひと昔前までは、ヘルメットも被らなくてはならなかったが、 現在は宇宙服を身につけるだけで 頭のてっぺんからつま先までガードしてくれる。 「十四郎!」 銀時はスクーターを走らせて、十四郎を救出しようとした。 銀時が彼に向かって手を伸ばす。 十四郎も手を伸ばす。 銀時の手が、しっかりと十四郎の手を取った。 引き寄せて、スクーターの後ろに乗せようとした時、 「ちょきん!」というハサミの音を銀時は聞いたような気がした。 銀時の目の前で、十四郎の伸ばし始めた 黒髪を怪物のハサミが切ってしまったのだ。 髪を束ねて結んである、その箇所からばっさりと。 幸い服の方は損傷しなかったから、 問題はなかったのだが・・・なかったはずなのだが。 「てめェ!何しやがる!」 と激怒して、平常心を失った男がひとり。 「銀時、落ち着け」 後ろから声をかける十四郎に、 「俺のロマンが・・・! 真っ白なシーツに広がる、長い黒髪が!」 と涙目で訴える銀時。 「そんなことで、俺に髪を伸ばせって言ったんかい! エロじじいか、てめェは!」 「あンのヤロー、叩っ殺してやるぅー!」 「やめろ!やめろ!」 と球型のカメラから、ハタ皇子の必死の声が聞こえてきた。 「あれは余のペットのタマじゃ」 「はあ?」 銀時と十四郎が同時に、カメラに向かってしかめっつらをした。 「言ってなかったか? タマは宿にする入れ物に、一瞬にして 自分の体を合わせてしまうんじゃ。 きっとあの岩の大きさに、自分の体を合わせたんじゃな。 うむ、今までで一番大きくなった」 「感心している場合か!このバカ皇子!」 と銀時が噛みつく。 「あ。今、バカつったよね」 「一番大事なところ、教えてくれなかったじゃねェか、このアホ皇子」 と十四郎もすごむ。 「アホって何?余のことか」 タマは巨大な体で暴れている。 巨大化したため腹が空いて、単に餌を 探しているだけなのかもしれないが・・・。 銀時はようやく、暴走している 十四郎のスクーターに追いついた。 銀時の腰にまわしていた手を離し、 自分のスクーターに乗り移る十四郎。 「あの岩からタマを出して、すぐに元の小さな貝殻に入れるんじゃ」 一応、アドバイスしてくるハタ皇子。 「入らねェだろーが、もうこんな小さなトコに」 銀時が、宝石をちりばめたタマの貝殻を見る。 「被せるだけで大丈夫じゃ」 「ほんとか?」 「信じよ」 「・・・」 「あれ?何じゃ、この沈黙は」 「銀時、さっさと終わらせようぜ、煙草が切れちまった」 「十四郎、宇宙服ン時は、吸うなって言っただろ」 銀時の言葉は無視して、十四郎はスクーターのアクセルを踏んだ。 「一番槍、いただき!」 「あ!ずるいぞ!」 タマの背後から近づいて行く、二人。 十四郎が、銀色の刃を抜いた。 銀時が、腰の木刀「洞爺湖」を抜く。 獲物に向かって行く時のこの昂揚感は、 やはりオオカミの血であろうか。 「うりゃあああああ!!!」 木刀と刀が、タマの岩に叩きこまれる。 無数の傷が入って、岩が砕ける。 その砕けた石の塵をかいくぐって、銀時は タマの頭に小さな貝殻を押しつけた。 タマの巨大な姿は消え、銀時の手の中には 一匹のヤドカリが可愛らしく納まっていた。 数時間後には、央国星のハタ皇子のところへタマを無事に届けた。 宇宙船の中、報酬にほくほくしている 銀時から、十四郎がそれを取り上げる。 「あ!何しやがる」 「じゃ、ねェだろ。 おまえに持たせておくと、賭け事に使っちまうからな」 「いや、たまにはロマンを求めようかと」 「ロマンと言やあ、何でも通ると思うなよ」 「十四郎、地球にいた時より、キツくなったよな、性格」 「てめェは相変わらず、ダメオだな」 船内の和室で、十四郎は金を分けていく。 「こっちは、地球のお登勢さんに送る分だ。 家賃、踏み倒して出て来ちまったからな」 「もう時効なんじゃねェ」 と銀時が金に手を伸ばしてきたところを、ばしっと叩く十四郎。 「これは今月分の坂本への返済」 「あいつ、悪徳商売で儲けていやがるんだぜ。 こんな些細な金、気にしないと思うよ」 「駄目だ。 友達だからって、甘えちゃいけねェ。 こんないい船、随分安く譲ってもらったんだからな」 生まれつきまじめなのか、律儀なまでに義を通そうとする。 やや息苦しさを感じるものの、銀時は 十四郎のそんなところも好きだった。 というか、その彼の性格のお陰で、客の信用を勝ち得ているのだ。 源外に道具の材料費等を渡せば、もう後には幾らも残らなかった。 「なあ、十四郎、今月ピンチなんだよ。 少し融通してくれ」 「給料日まで待つんだな」 見事に一蹴された。 鬼の副長は、万事屋になっても健在であった。 「ああ、せっかく伸びてきたのに、もったいねェな」 銀時は風呂場で、十四郎の髪を洗ってやりながらぼやいた。 「俺はこっちの方が、動きやすくていいよ」 「そんなこと言わないで、また伸ばしてくれよ」 銀時は乾いたタオルで、くるりんと十四郎の頭を包んだ。 二人、浴槽内に向き合って座った。 疲れた体が、熱い湯の中で気持ち良くほぐされていく。 目をつぶっている十四郎に、銀時はそろりと近づいて行く。 湯が動く。 何も言わずにその肌に銀時が手を 置いても、十四郎は何も問わなかった。 彼がその美しい容姿を自覚して駆使すれば、 魔性の女風に生きていくことができたかもしれない。 そうならなかったのは、十四郎の 心根にあるのかな、と銀時は思う。 (何、言ってんだろーね、俺は。 結局、俺だけの十四郎でよかった、と安堵してんだろ) 十四郎の体の上に、静かに自分の体を重ねていく。 「なあ、銀時」 目をつぶったまま、十四郎が訊いてくる。 「いつか、地球から仕事の依頼がくるかな?」 寂しそうなもの言いに、銀時が優しく答える。 「そうしたら、変装して行かなきゃな、顎でもしゃくって」 目を開ける十四郎。 目の前には、銀時のしゃくれ顔。 ぷっと噴き出す。 「よし、笑ったな」 銀時が満足そうに笑う。 一日一回は、十四郎の笑顔を見たい。 その笑顔を手のひらに包んで、独り占めする。 通信機が鳴った。 「ちっ!」 思わず舌打ちする銀時。 風呂場にもついているので、十四郎は自分の後ろの 壁にくっついている通信機のスイッチを押した。 「はい、こちら『万事屋銀ちゃん』です」 (終) ※あとがき 土方十四郎お誕生日記念作品だったのですが、 誕生日はあまり関係なかったですね。 それでも、バースデーケーキは飾らせてもらいました。 La Moon様からお借りしました。 宇宙の万事屋の活躍を描こうと思ったのですが、 ケーキのように甘いお話になってしまい、すみませんでした。