Justice4(最終回) − ヒョーゴとキュウゾウ −
「一週間で片がつく」というのが本部の見解だった。 二週間毎日のように、戦場(いくさば)に立つサムライ達を激励する電文が届いた。 三週間目、兵達は糧食をぎりぎりまで節約しながら戦っていた。 補給を要請し続けているのに、 その度に「準備中」だとか「直ぐに出る」といった返事ばかりだ。 出前じゃないんだ、「今、出ました」っていつから言っていた? 刀が刃こぼれしても、替えがない。 同僚達の遺体を回収するよりも、彼等の握っていた刀を探し回った。 昔の映画を真似て靴を食べ、腹を下して死んだ奴がいるらしい、 という話までまことしやかに流れた。 北軍の指揮官は用心深いのか、それとも戦力がないのか、 最初の攻撃を防いだらそれ以上仕掛けて来ない。 小さな衝突を繰り返しながら、両軍共いたずらに疲弊していった。 だが、それもそろそろ終止符を打たなくてはならない。 帰還用の燃料にも手をつけ何とか乗り切ってきたが、もう限界だ。 動ける紅蜘蛛(べにぐも)と雷電(らいでん)を中心に、 俺達は打って出ることにした。 玉砕も覚悟した。 生き残り組には、あのイノシシ先輩もいた。 俺の隣には、ハヤトがいる。 生身のサムライ達は、それぞれ斬艦刀(ざんかんとう)と鋼筒(やかん)で出撃する。 その作戦会議中、敵を監視していたモニターの映像に変化があった。 北軍の戦艦がいきなり爆発を起こしながら、地上へと落ちて行ったのだ。 どよめく南軍。 北軍の驚きはそれ以上で、機械のサムライ達は何事かとそのまわりを飛び回る。 爆風の中から現れたのは、巨大な紅蜘蛛だった。 普通のそれよりも優に倍以上はあろうか。 そしてその機体には、派手な装飾が施してある。 「う・・・!あれは・・・」 南軍の俺達には、その紅蜘蛛に心当たりがあった。 どこの隊へ行ってもいざこざを起こし弾き出されてしまう、 そんなあぶれ者達が集まっている集団の大将だ。 彼等はハイエナのように戦を求めて、いつも空をさ迷っている凶暴な連中である。 「南軍のお坊ちゃま達、俺達もこの戦に交ぜてくれよ。 隣でやってた戦に勝っちまってさ」 紅蜘蛛の大将の後ろから、これでもかというぐらい 自己主張の強い装飾を施した紅蜘蛛や、雷電の集団が飛び出して来た。 派手な戦を好む彼等の仲間に、生身のサムライはいないと聞いている。 砲弾が発射される音がした。 敵側が放ったものだ。 あっという間に、紅蜘蛛の大将の顔面に迫る。 と、空から真っ直ぐに落ちて来た紅い影が、それを真っ二つに切って捨てた。 同じく上空から現れた雷電、こいつも馬鹿デカい、 が驚いたことに両手に二機の斬艦刀を握っている。 そのうちの一機が彼の手から離れると エンジンを全開にして、下へ落ちて行く紅い影を追った。 斬艦刀の上に、その紅い影がひらりと舞い降りた。 目を引く紅くて長い戦闘服が翻る。 金色の髪が風になびいている。 彼の両手には、銀色の細身の長刀が握られていた。 (あのサムライの瞳が、戦闘服の色と同じ紅い色ならば・・・) と俺は髪をかきあげながら、そいつの名前を思い浮かべた。 「キュウゾウ!助かったぜ」 紅蜘蛛の大将が発した名に、俺は固まった。 「今、キュウゾウって・・・?」 とハヤトも、信じられないといった様子だ。 ハヤトの向こうから、イノシシが言った。 「ああ、そうだ。 あのガキがねえ、でかくなったもんだ」 別れてから三年が経っていた。 モニターの映像の中を、キュウゾウの二刀流が敵を蹴散らして行く。 鋼筒や兎跳兎(とびと)が行く手を阻もうとするが、一閃で鉄屑と化した。 「あの太刀さばき、以前よりも切れがいい」 俺は唸った。 別れの日、俺は軍での安泰を求め、 キュウゾウはサムライとしての生き方を求めた。 俺は刀に手をやった。 今、彼と立ち合いをして、俺は勝てるだろうか。 カチリと鯉口を切る音がした。 イノシシだった。 彼もまた、キュウゾウと刀を交えてみたいと思っているに違いない。 イノシシが刀を抜いて言った。 「俺達も出るぞ! あいつらばかりに、いい格好はさせられない」 すきっ腹を抱えてふらふらしていたサムライ達が、 船が揺れるほどのときの声を上げた。 まさに、ヒーローが必要な時だったのだ。 さっきまで絶望的だった戦局に、皆希望を見出していた。 ハヤトの操縦する斬艦刀に、俺は飛び乗った。 出撃すると、空は戦火で薄暗かった。 ハヤトが叫ぶ。 「あそこ、キュウゾウだ!」 紅蜘蛛を腹から胸へと斬り裂きながら駆け上がり、 そいつの顔を蹴って宙で体をひねり、敵の斬艦刀の上に立った。 蹴られた紅蜘蛛は、そのまま仰向けに倒れて行った。 キュウゾウは、斬艦刀の上にいた生身のサムライへと斬りかかって行く。 あいつは、腐らなかったんだ。 俺達が見捨てても、どんなに荒れ果てた戦場に送られても。 ひたすら剣の腕を磨いてきたのだ。 サムライを斬って捨てたキュウゾウは、そいつが乗っていた斬艦刀をも切って 爆発させると、爆風に乗って次の獲物に向かった。 ハヤトが、キュウゾウを追おうとする。 「また、三人でやるか」 そこへ敵の雷電が突っ込んで来た。 俺が跳び、刀を振るう。 しかし、刃こぼれしている刀では、 硬い装甲をガンガンと殴りつける耳障りな音だけが響く。 仕方なく、俺は斬艦刀に戻った。 雷電は、俺達を潰そうと襲いかかって来た。 と、彼は悲鳴を上げてばらばらになってしまった。 「!?」 俺の隣に、キュウゾウが降り立った。 刀を振って、機械の油を払った。 彼は俺と同じくらいの背丈になっていた。 俺の知らない間に、髪も伸びたし手足も長くしなやかになった。 ぶかぶかの軍服ではなく、体にぴったりと合った紅い戦闘服を着ていた。 キュウゾウは左手の刀を肩に担ぎ、自身の右手に握った刀は俺に差し出した。 「使え」 声も低くなっていた。 だが、まだ二十歳にはなっていないはずだ。 紅い瞳は強く俺を見て、すぐ逸らされた。 俺だと、気づいていないのだろうか。 寂しく感じながらも、彼の刀を受け取った。 「主砲、来るぞ!」 ハヤトが叫んだ。 俺とキュウゾウが、互いの刀を交差させて白い光を止めた。 「ヒョーゴ、必ず生きて還れ! 待っている人がいるのだろ」 「おまえ!?」 俺達が弾き返した光は、そのまま真っ直ぐに敵の戦艦に命中した。 何か言おうとした時、もう隣にキュウゾウの姿はなかった。 見ると、機械のサムライ達を斬りながら戦艦に向かっているところだった。 その爆風の後を、仲間の斬艦刀が追って行く。 あのスピードに、やはりきりきり舞いさせられているのだろう。 「キュウゾウ!俺も待っている。 おまえを待っているぞ!」 彼がわずかだが振り向いたように思ったのは、気のせいだったろうか。 ふっと笑みがこぼれ、それから先ほどのキュウゾウの言葉が胸をしめつける。 「キュウゾウ・・・おまえは知らなかったな。 母は死んだよ。 だから、俺を待っている人はもういない」 「ヒョーゴ、正面!」 ハヤトの叫び声。 まぶしい光が、こちらへ向かってきた。 俺はキュウゾウの刀を構え、気合を入れる。 「はっ!」 俺が打ち返した光は、敵のサムライ達を貫いて行く。 「左だ!」 ハヤトの声と、雷電の斬艦刀が振り下ろされたのが同時だった。 刀で止めなぎ払うと、跳躍して奴を斬り伏せた。 だが、その崩れる雷電の後ろから放たれた弾丸への対応は遅れた。 ハヤトのいる操縦席が、吹っ飛ばされたところが見えた。 閃光に俺の目がくらんだ。 爆風に飛ばされ、俺は落ちて行った。 霞んだ視界の中、キュウゾウが俺達に気がついて、 斬艦刀を回して戻って来ようとしている。 「来るな!行けーっ!」 声がかすれている。 もう、目も見えなくなってしまった。 木の葉のように落ちて行く俺を、誰かが受け止めた。 あいつだと感じた。 「キュウゾウ・・・馬鹿め・・・戻って来るな、と」 「あんたには借りがある。 覚えているか。 昔、肩を借りた」 斬艦刀が加速した。 ハヤトは死んだ。 俺に、キュウゾウを見捨てるな、といさめた彼は空に散った。 イノシシは重傷を負い、機械の体に換えて再び戦場へ向かったという。 俺もひどい怪我をしたが、腕一本機械にしなかった。 目もやられたが、失明はしなかった。 ただ、光に敏感になってしまったので、 それに対処するため眼鏡をかけることになった。 あの時、キュウゾウを捨てた俺達が、あいつに救われた。 俺の入院は長引き、病院のベッドの上で終戦を迎えた。 やはり、あの戦で感じた北軍の押しの弱さは、負け戦への序章だったのだ。 もっとも、勝った南軍も長い戦で疲弊していて、 商人(アキンド)にいいようにされているらしい。 退院を前に、ハヤトの両親が俺を訪ねて来た。 遺品の中にあったと、俺宛の小さな包みを置いていった。 簪(かんざし)だった。 「その髪、切るかまとめるかしたらどうだ?」 髪をかきあげる俺の癖を指して、女房のような口を利いていたハヤト・・・。 友を想って初めて泣いた。 俺は髪をまとめ、簪で留めた。 病院の窓から空を見上げる。 「キュウゾウ、おまえも地上に戻って来るのだろうか」 戦が終わってから、三年の月日が流れた。 各所で復興は目覚しく、サムライの代わりに商人が時代の権力を握った。 俺は病院のあった街、虹雅渓(こうがきょう)の差配(さはい)である アヤマロの用心棒となった。 この街にいれば、キュウゾウに逢えると思った。 街ではアヤマロの配下の警邏隊(けいらたい)が、警備に当たっている。 彼等にキュウゾウの特徴を伝え、気にかけておくよう頼んでおいた。 ある雨の日の夜―。 俺は遂に、キュウゾウを見つけた。 この街にいたということは、 彼も俺の足跡を追って来たのではないか、とうぬぼれてしまう。 キュウゾウが斬り捨てた サムライ崩れどもの死体の中に、あいつが転がっていた。 警邏隊の話では、キュウゾウは彼等に追われていたという。 俺はその冷たい体を、かき抱(いだ)いた。 「俺はおまえを必ず見つける、前にそう言ったろ」 キュウゾウの金色の髪に、ホタルが一匹飛んで来て留まった。 癒しの里にしかいないホタルだ。 ここまで来るのは無理があったのだろう、 その弱々しい光がキュウゾウの横顔を照らす。 そんなものを見ていたら、青いくすぐったい感情が戻ってきた。 「俺はさ、もういい年なんだぜ」 キュウゾウは、二十歳になったのだろうか。 また、俺の知らない顔になっていた。 大戦をくぐり抜けてきたサムライの顔だ。 背中には、見覚えのある二振りの刀がひとつの鞘の上下に収まっていた。 爆風に飛ばされて俺が手放してしまった刀は、ちゃんと持ち主の元に戻ったのだな。 だが、もうサムライとして生きては行けない世の中になっていることを、 キュウゾウはわかっているのだろうか。 俺は深く彼を抱きしめた。 「殺してしまおう。 このまま商人の街の中に沈めて、 サムライとしてのおまえを殺してしまおう・・・」 雨は強く重く、俺達を叩いていた。 その晩、俺はアヤマロ御殿の自分に与えられた小さな部屋で、 キュウゾウを温め続けた。 熱いタオルで彼の身体を清めてやり、布団に寝かせた。 俺も服を脱いで布団に入り、彼の身体を包み込む。 キュウゾウの右肩には、イノシシにつけられた傷跡があった。 だが、俺がつけた心の傷は見えない。 後悔していないなんて、自分についた嘘だった。 二度とキュウゾウの肌には触れないと誓った。 けれども、今は赦して欲しい。 やはり、俺の手でおまえの命を救いたい。 雨音が、部屋の中にまで聞こえてくる。 あのホタル、何処へ行ったか。 きっと、雨の中で死んでしまったろう。 ・・・・・明日は晴れるといい。 砂だらけの不毛の地で、俺はキュウゾウに銃を向けた。 振り向きざまにおまえは、刀を抜いた・・・・・・。 「なぜだ・・・?キュウゾウ・・・」 「・・・生きて・・・みたくなった」 「・・・馬鹿・・・め」 俺達のJustice、 いったいどこから違ってしまったのだろう。 (終) ☆あとがき 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 長くなって申し訳ありません。 小説の七巻を読んで、ヒョーゴ&キュウゾウの昔話が 妄想爆走してしまいました。 不快に思った方は、すみませんでした。 Justiceって意味がたくさんあるのですね。 私は正義とか道理といった意味が一番近いのかな、 と思ったのですが、どうでしょう。