Justice1 −ヒョーゴとキュウゾウ− 

 『俺達の青春なんて、ガラスの欠片ほども輝いちゃいなかった』

 戦場(いくさば)には耐えず、大きな不幸と小さな不幸が混在している。 もしもこの船が沈めば、間違いなく大きな不幸として取り上げられるだろう。 「ヒョーゴ、やっぱり教官達は逃げ出したらしいぜ」  訓練船の中を一回りして来た同僚は、できるだけ小さな声で囁いたが、 数百の不安そうな目が一斉にこちらを見た。 彼等の神経も、ピリピリしているのを感じる。  サムライ達が体を機械に変え始めてから、戦況は恐ろしい速さで展開するようになった。 この空域も俺達が出発する頃は、安全区域だったはずだ。  もっと南の方で繰り広げられていた戦のど真ん中に、俺達は置き去りにされた。 老齢な教官達は、さっさと脱出船で逃げてしまっていた。 どうりで長生きしている訳だ。 逃げ足が速い。  そこで今、ここにいる訓練生達が頼りにしているのは、 たまたま訓練の手伝いに駆り出された新兵の俺達五人だけということになった。  既に一人は、訓練生の何人かを連れて教官室へ向かった。 船の操縦と無線を担当してもらうためだ。  俺は顔にかかる長い黒髪をかきあげた。 問題に突き当たると、その回数が増える。  「サムライなれば、おのれの身はおのれで何とかしろってところか」  言いながら、俺はまた髪をかきあげてしまう。 「出るか」  同僚達も覚悟を決めたらしい。 「おとりになって、この船を逃がす」  俺が言い切った。 俺は訓練生達の名簿を繰った。 「番号を呼ばれた者は、前へ出ろ」  三人までは、単純に成績の良い者から順に選んだ。 あと一人・・・。 教官の赤い文字が、やたらに目立つ奴がいる。 注意書きばかり。 こいつ、使えるかも。 あの教官達の枠の中に納まらないサムライ・・・。 「47番」  列から出てこちらへやって来たその男は、身長が俺の肩ぐらいまでしかなかった。 少々不安になるが、そいつの背中を見て興味を持った。 「おぬし、二刀流か」  47番はうなずいた。 「これから二人一組で、斬艦刀(ざんかんとう)で出撃する」  えっ!と驚く三人の訓練生達。 47番は動じていない。 「あとの者は矢榴弾(やりゅうだん)で、まとわりついてくる鋼筒(やかん)を攻撃しろ。 絶対、船に侵入させるな」 斬艦刀による訓練のために来たのだが、訓練生達はいきなり実戦となってしまったわけだ。  俺は47番と組んだ。 「おぬし、斬艦刀の上に立てるか」 「無論」 「よし」  俺は髪をかきあげて、無理に微笑んだ。 これで、こいつの命は俺が握ってしまった。  他の組ではもめごとも発生した。 出撃は嫌だ、と駄々をこねているのは確か二位の成績の105番だ。 「おとりになればいいだけだ。 小僧、しっかりしがみついていろ!」  俺は105番の胸倉を掴んで、凄んだ。 「落ちたら拾ってやるさ」  105番と組む同僚が、冗談めかして言った。  俺は斬艦刀の操縦席に入った。 訓練用だから、旧式だった。 (今度こそ、還って来られない)  そんな考えが頭をよぎった。 軽い振動を感じて、見ると47番が尖端のところに片膝を立てて座った。 他の連中は、しっかりと操縦席にすがりついている。  47番の背中を見ながら、彼だけが発進口が開くのを心待ちにしているような、そんな気がした。  すると、47番も俺を見た。 俺は瞳に力をこめてうなずいた。 「ヒョーゴ殿」  教官室からだ。  簡単に打ち合わせをして、いよいよ戦闘開始だ。  発進口が開いて行く。 さっそく鋼筒が数体、そこからこちらへの侵入を試みたが矢榴弾に貫かれて爆発した。 矢榴弾班はさい先がいい。  俺は真っ先に飛び出した。 47番を満足させたかった。  尖端の47番がゆっくりと立ち上がった。 風になびく彼の髪が金色であることに、初めて気がついた。 俺は自分の黒髪に手をやった。  47番が、背中の二振りの刀を抜く。  わっと群がって来る機械のサムライ達。  振り下ろされた刀を、47番がなぎ払った。  雷電(らいでん)が斬艦刀で攻撃してくるのを俺が操縦でかわすと、 47番が跳んでそいつを斬り刻んでしまった。 そこには初めて人を斬る者の、ためらいもなければ迷いもなかった。 (こいつ・・・、ここへ来る前に人を斬っている)  確信だった。 俺の背中を冷たい汗が流れて行った。  斬艦刀に戻った47番が、すぐに鋼筒に囲まれる。 そいつらを十分に引きつけておいて、47番は弧を描くようにして斬り伏せた。 バラバラになって落ちて行く鋼筒。  俺の目に光が入って、一瞬目がくらんだ。 「?」と見ると、向こうから敵の斬艦刀が太陽光を反射させながら近づいて来る。 こちらも強気で、そちらへ舳先(へさき)を向ける。 47番は斬艦刀の上に、自分と同じように堂々と立つサムライを見つけて、気分が高揚しているようだ。 刀も気を帯びて震えている。 二機の斬艦刀は、すれすれのところで行き違った。 俺が外した。 敵のサムライも47番も、動かなかった。 「『イツモフタリデ』だと?ふざけるな!」  俺は胆力で負けたことを、認めたくなかった。 だから、敵の風防に書かれていた落書きに腹を立てた。 「追えるか?」  47番はあいつとやる気、満々だ。 「勿論」  俺だって、そうだ。 斬艦刀を回して奴等を追った。 「上につけろ」 「任せろ」  敵の紅蜘蛛(べにぐも)やら雷電やらを挟んで、「イツモフタリデ」艦の上につけた。 「えっ!?」  47番が飛んだ、空へ。 「あの、馬鹿!」  臆病者も困るが、クソ度胸のある奴は怖い。 自分だけ突っ走って、組んだ仲間のことを忘れてしまうからだ。 俺は髪をかきあげるどころか、かきむしった。  俺は47番を追って、急降下した。 必ず拾わなくてはならない。  47番は機械化したサムライ達を斬り裂きながら、「イツモフタリデ」艦に突っ込んで行った。  斬艦刀に立っているサムライに迫る。  先刻は気がつかなかったが、歴戦の勇者といった風貌の男だ。 ただの訓練生には、相手が大き過ぎる!  47番の一打目を男が弾いた。 すかざず二打目を打ち込んだが、これも弾かれて47番は落ちて行く。 しかし、打ち込みは悪くなかった。 サムライの体はぐらりと大きく揺れて、刀を斬艦刀に刺してようやく姿勢を保った。  俺は落ちて来た47番を拾うと、怒鳴った。 「馬鹿め!死にたいのか」 「もう一度、行けるか?」  平然とした顔で、奴が訊いて来た。 「何だとッ!」  その時、俺は気がついた。 敵が訓練船の周りから退いて行く。 「イツモフタリデ」艦も、遥か遠くへ行ってしまった。  それを悔しそうに睨んでいる47番の横顔が、あまりに幼いので驚いた。 もしや、「イツモフタリデ」艦のサムライは、この幼さに軍を退くよう指示してくれたのか。 俺達が誰を逃がそうとしているのか、悟ったのかもしれない。  俺達はそのまま訓練船を護衛しながら、戦場を離れた。  まもなく、訓練場からの要請で救助に来たという、片山ゴロベエの隊に拾われた。 「頑張ったな、おチビちゃん達」  そのおどけた言葉にほっとして、泣き崩れる訓練生もいた。  俺と47番の組以外は、戦闘にならなくて 「とにかく、逃げ回るだけだったよ」  と同僚達が苦笑していた。 「全員生還したのだから、勝ち戦だったということだ」  片山ゴロベエにそう言われて、俺は救われた気分がした。 「47番!」  斬艦刀を降りると、俺は彼を呼び止めた。 「まだ、名前を聞いていなかったな。 俺はヒョーゴだ」  彼がゆっくりと、俺の方に体を向けた。 「キュウゾウ」  面倒くさそうにそう名乗った。 だが紅い瞳は、戦を経てキラキラと輝いていた。 この時、俺はその紅に心を奪われてしまったのかもしれない。 (2につづく) ☆ いろいろ言い訳  各所で無理な設定がありますが、見逃してください。  小説の7巻でのヒョーゴとキュウゾウ殿の関係が良かったので、  思わず妄想が暴走してしまいました。  題名の「Justice」は勿論、新OPの曲名から取ってしまいました。  安直な私をお許しください。  結構、あのOPは気に入っているんです。